スティーブン・チョボスキー監督

 『スター・ウォーズ』が大好きで、宇宙飛行士に憧れる10歳の少年オーガスト。どこにでもいるごく普通の子だけど、ちょっと違うのは、遺伝子の疾患で人とは異なる顔で生まれてきたこと。そんな彼が、みんなと同じ学校に通い始めたことでさまざまな経験を重ね、成長していく…。『ワンダー 君は太陽』(6月15日全国公開)は、全世界800万部突破のベストセラー小説を、天才子役ジェイコブ・トレンブレイ、ジュリア・ロバーツら豪華キャストで映画化した感動作。公開に先駆けて来日したスティーブン・チョボスキー監督に、映画製作の舞台裏などを聞いた。

-原作の良さが生きた映画だと感じました。手応えはいかがでしょうか。

 僕も物書きで、前作の『ウォールフラワー』は自分の小説を映画化しています。今回はそのときに学んだことを生かしました。素晴らしい役者がそろっていたことにも助けられました。うれしかったのは、映画が完成して原作者のR・J・パラシオと一緒にインタビューを受けたときのこと。「原作にあり、映画に登場せず残念だったシーンは?」と聞かれた彼女が、少し考えてから「思いつかないわ」と答えたんです。僕は「やった! 自分の仕事はこなしたぞ」と誇りに思いました(笑)。

-オーガストを演じたジェイコブ・トレンブレイくんの演技が見事です。演技についてどんな指示をしましたか。

 特別な指示はしていません。幸運だったのは、ジェイコブが、その世代に1人しかいないような希有な才能の持ち主だったことです。ジェイコブのお母さんは優れた演技コーチですし、共演者も素晴らしい人ばかり。僕の仕事は、全ての役者が自分のキャラクターを自由に掘り下げ、お互いを支えられるような現場の雰囲気を作ることだけでした。ジェイコブには、時々「集中して!」と言ったぐらいです。

-この作品ではオーガストの顔の特殊メークも重要なポイントです。小説であれば読者の想像に委ねられますが、映画化する上では誰でも分かるように視覚化しないといけません。どんなことに気を付けましたか。

 オーガストのような顔の障害を英語で“フェイシャル・ディファレンス”と言いますが、その特殊メークのデザインを決定するまで、2カ月ぐらいかかっています。最も気を使ったのは、映画として成立するためには、ジェイコブの演技がきちんと伝わるものでなければいけないということ。その点では、特殊メーク担当のアリエン・タイテンがいろいろなアイデアを出してくれました。例えば、白目を小さく見せるためにコンタクトレンズを使ったり、頭の後ろに仕込んだスイッチで目を下に引っ張る仕掛けを作ったり…。顎もCGで少し短くしています。そういった努力が評価され、アカデミー賞(メイクアップ&ヘアスタイリング部門)にもノミネートされました。

-その特殊メークに対して、同じような障害を持つ人たちからの反応は?

 フェイシャル・ディファレンスの子どもたちは、それぞれ見た目が違うのですが、リスペクトしていると感じてくれたらしく、みんな「とても良かった」と納得してくれました。

-映画を作る上で、フェイシャル・ディファレンスの人たちと会いましたか。

 今まであまりフェイシャル・ディファレンスの人たちに会ったことがなかったので、映画を作る前に会ってみたんです。最初はやっぱり違和感がありました。でも2年後、映画を作り終わったときには、もう何とも思わなくなっていました。つまりそれが、ごく普通の日常の一部になったんです。そして、この作品に関して素晴らしい出来事がありました。それは、フェイシャル・ディファレンスの子どもたちやその家族が、この映画のおかげで「人生が変わった」と言ってくれたことです。周囲の理解が深まったと。他の人と変わらないごく普通の少年としてオーガストを描きたかったので、とてもうれしかったです。

-原作では、オーガストが学校の課外授業で見る映画は『サウンド・オブ・ミュージック』(65)ですが、映画では『オズの魔法使』(39)に変更されています。その理由は?

 初めは『サウンド・オブ・ミュージック』を使うつもりだったのですが、(主演女優の)ジュリー・アンドリュースから許可が得られなかったんです。どうやら、ポリシーとして誰にも許可しないと決めているようなんです。そこで、『オズの魔法使』に変更しました。それを選んだのは、僕が初めて好きになった映画だからです。

-『オズの魔法使』は自分探しの要素もある物語なので、この映画の内容にも合っていますね。

 そうなんです。結果的には、『サウンド・オブ・ミュージック』より良かったのではないでしょうか。ジュリー・アンドリュースに感謝です(笑)。

-この映画を見て、『エレファント・マン』(80)を思い出しました。どちらも顔に障害を抱えた心優しい人物を主人公にしている点が共通しており、この映画の原作にも『エレファント・マン』が登場します。ただ、この映画は『エレファント・マン』に比べてより優しさにあふれており、時代と共に世界がより良くなっている手応えが感じられます。

 ありがとう。その通りだと思います。

-また、今年のアカデミー賞受賞作『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)は、かつてモンスターとして扱われていた存在を受け入れる物語で、本作と『エレファント・マン』の関係に似たものを感じます。同じようなタイプの映画が同時期に作られたことは、時代の変化を象徴しているようにも思えますが、いかがでしょうか。

 例えば政治的な部分では、今は世界各国のリーダーがお互いを恐れている時代で、人々も自分にとって異質なものを恐れています。しかしその一方で、それに対してバランスを取らなければいけないという考えが働いているのではないでしょうか。50年前には人種問題がありましたし、他にも性的嗜好や宗教の問題があります。でも、私たちはお互いのことを知るにつれ、人にあらかじめ備わっている善良な部分がおのずと出てくると思うんです。このように直接顔を合わせれば、世界中の心ある人たちは、お互いに敬意を払うことができるわけですから。

-本作も『ウォールフラワー』も、あなたの映画には学校の片隅で小さくなっている少年を優しく見守り、そっと背中を押してあげるような温かさがあります。そこにはどんな思いが込められていますか。

 僕が子どもの頃、自分の人生を変えてくれた映画があります。それは、ジョン・ヒューズ監督の『ブレックファスト・クラブ』(85)とピーター・ウィアー監督の『いまを生きる』(89)です。この2本を見た時、「僕を理解してくれている」、「僕だって成功をつかむことができるんだ」と感じたんです。だから、本を書いたり、映画を作ったりすることができる立場にある今は、僕が「みんな独りじゃない」、「君も成功することができる」ということを、物語を通じて伝えて行きたいと思っているんです。

-ご自身の学校生活が反映されている部分も多いのでしょうか。

 そうですね。『ウォールフラワー』には、僕や友人の学校での経験が反映されています。この映画でも、原作にない部分には僕の経験が生きています。一番は、オーガストたちがゲップ大会をする場面。実は僕はゲップが得意なんです(笑)。

(取材・文・写真/井上健一)