鈴木伸之(写真:藤本和史)

 元暴走族のヘッドでマグロ漁師からサラリーマンの世界に飛び込んだ不屈の男・矢島金太郎が、持ち前の度胸や腕っぷしの強さを武器に令和の社会で大暴れする姿を描く映画『サラリーマン金太郎』【暁】編 (1月10日公開)/【魁】編(2月7日公開)。2部作となった本作で主人公の金太郎を演じた鈴木伸之に話を聞いた。


-出演が決まった時の気持ちは。


 僕は「サラリーマン金太郎」の世代ではないですが、とても型破りなサラリーマンが成り上がっていくといった話であることは知っていたので、すごい作品に出るんだというのが第一印象でした。体を張る作品になるというのは想像できたので、「よし頑張るぞ」という感じでした。


-最初に脚本を読んだ印象と、実際に演じてみて感じたことを。


 金太郎はとにかく熱い男なので、何を理由に許せなくなるのだろうなど、金太郎の持っている信念みたいなものをすごく考えながら演じました。「(現実社会では)ちょっと違うかもしれないな」と思うことも時にはあったのですが、そこは役を信じて、「こう思っているんだろうな」ということをストレートに伝えていく力みたいなものを意識しました。演じ終えた時は何か気持ちよかったです。たくさんアクションもしましたし、なかなか普段は言えないようなこともたくさん言えたので、爽快感はとてもありました。それを見てくださる方も同じような気持ちになってもらえたらうれしいと思います。


-「ちょっと違うな」と思ったのは、どんなところですか。


 金太郎が入社初日に、黒川専務(尾美としのり)とエレベーターに一緒に乗るシーンがあるのですが、専務とは知らずに「何で一緒に乗っちゃいけないんだ」と盾突くところがすごいなと。相手を選ばないキャラクターではあるんですけど、すごく突っかかるなと思って。そう思っていても言えないことを全て口にするキャラクターなので、そこはやっていて気持ちよさもありながら、言ってしまうことで摩擦が生じるんだというふうにも感じました。


-今はコンプライアンスが叫ばれる時代ですが、金太郎の性格には共感できましたか。


 金太郎の、すぐに手が出て、相手を腕っぷしで…みたいな手法は、やっぱり原作の良さといいますか、なかなか現実ではできない、フィクションの世界だと思うのですが、金太郎はとても対話を大事にするキャラクターなので、どれだけ大きな相手だろうが、面と向かっていくところは令和の時代も一緒なのかなというのはすごく思いました。金太郎を演じながら、人の気持ちはこうやって動いていくんだなと感じました。結局はどの時代も話し合ってコミュニケーションを取っていくことが一番大切なんだなと。話してみれば、こんな簡単に解決することだったんだということがたくさんあると思うので、そこは僕自身も金太郎から学ばせてもらったという感覚はありました。

-印象に残るせりふはありましたか。


 「サラリーマンをなめんじゃねえ」ですかね。やっぱりこの作品といえばこのせりふを言ってみたいというのはあったので、気持ちよかったです。世の中の大半の方々がサラリーマンなわけで、自分の家族とか大切な人を守るために、時に何かを犠牲にしたり、自分の気持ちを押し殺すこともありながら生活されていると思うので、そういう方々の代弁者になるべきですし、これを見てもらって、自分じゃ言えないけど、こんなふうに型にはまらない人がいたらいいなと応援されるようなキャラクターは、すごくすてきだなと思いました。金太郎は真っすぐなキャラクターだという印象がとてもあったので、僕も真っすぐに演じたい、真っすぐにこのせりふを言ってみたいという気持ちが強かったです。


-殴り合うシーンが多かったですが、結構練習はしましたか。


 練習はかなりしました。マットを敷いて、跳び箱みたいなのを置いて、そこから人を投げる、ワイヤで引っ張られるなど…。けがはしたくないですし、させたくもなかったので、とても細かくリハーサルをしながらやらせてもらい、無事にけがなく終えられたのでよかったと思います。今回はサラリーマンの役なのでいつものアクションとは少し違いました。考えるよりも先に手が出る、あまりこなれていない、本当に腕っ節の強い兄ちゃんみたいなのってどういう感じなんだろうとアクション監督とお話ししながら、やらせてもらいました。


-特に印象に残った共演者はいましたか。


 出演してくださった全員の方に感謝なのですが、特に浅野温子さんはすごい女優さんだなと改めて思いました。世代は違いますが、ものすごい方だったという伝説はたくさん聞いていたので。実際にお会いしても、ハートは強いですし、やはりあの人がシーンを作り上げてくださり、金太郎の世界に連れていってくれる感覚が確かにあったので。改めて すごい方とご一緒できたなと。この作品に出させていただき、大きな財産の一つになったと思いました。


-最後に、読者や観客に向けて一言お願いします。


 金太郎は働くサラリーマンの味方であるべき存在です。彼の熱い思いが映画を通して伝わったらうれしいです。仕事で落ち込んだり、嫌なことがあったりした時に、この映画が皆さんの背中を押してくれる存在になったら幸いです。今回は、地方から出てきて右も左も分からないところが、僕自身にもとてもリンクしていたので、事前の準備はあまりしませんでした。探りながらでしたが、金太郎と一緒に、僕もサラリーマンに見えたらいいなという思いを乗せて演じさせていただきました。


(取材・文/田中雄二)