自分の非をわざわざ打ち明ける夫への疑問

朝美さんが筆者にこのことを打ち明けたのは、「これで慰謝料が請求できるかどうか知りたい」のが目的でした。

「これって、不倫ですよね?」と尋ねる朝美さんに、不倫の定義には自分以外の人間と肉体関係を持ったとする確固たる証拠が必要である旨と、自分は法律の専門家ではないので慰謝料の請求については弁護士に相談することを勧めました。

婚姻関係における慰謝料の発生事由については、弁護士など専門家に確認するのが確実といえます。

一方で、自分のしていることは夫婦仲の破綻を決定づける大きなものであると、夫は自覚しているのでしょうか。

その電話の後の様子を尋ねると、「今までと変わりません。私とは顔を合わせないし会話もないし、ただ帰宅が遅い日が多いのと週末は家にいないですね」と、変化はありません。

「そもそも、朝美さんに話さなくてもその女性とは水面下で関係を続けられますよね」と呟くと、

「そうなんです。私だったら、外に彼氏ができても夫には絶対に言わないです。

だから、どうしてわざわざばらすのだろうって……」

「朝美さんだったら、どんな状況のときに夫に打ち明けますか?」

そう尋ねると、しばらく考え込んだ後、

「あ、離婚してその人と一緒になりたいと思ったときですね」

と、はっとしたように目を開きました。

夫の「魂胆」とは

夫の行動について考えられる可能性として、朝美さんのほうから離婚を切り出してほしい魂胆があることは否定できないと感じました。

離婚について、お互いの同意があり協議で成立する場合を除き、婚姻関係を続けられない原因を作った側は、有責配偶者として離婚を請求することはできないと法律で決まっています。

夫がそれを知っているとすれば、自分からは切り出せないため朝美さんのほうに見切りをつけるよう促している、という見方は一つできます。

「そんなの、絶対にしないですよね」

そのことに気付いて、朝美さんはため息をつきました。

「家庭内別居になった原因を放っておいて自分だけ外で恋人を作って、それでこっちから離婚を切り出してほしいとか、どれだけ私を馬鹿にすれば気が済むんですか」

その後で語気を強めてこう言った朝美さんの怒りは当然であり、虚しい家庭を捨てて自分だけ楽になろうとする夫を許せない気持ちは理解できます。

離婚は今の朝美さんの選択肢にはなく、それは「子どもたちの学費や生活費など、お金のため」と割り切っています。

夫の目的が何であれ、いわゆる「弱み」を見せてしまった以上は、今後朝美さんが不貞行為の証拠を集めることは止められず、これまでより仲が険悪になることは目に見えています。

「肉体関係の証拠なんて、気持ち悪いだけですけどね。

それでも、離婚するときに有利になるのなら何とかしないと……」

これが朝美さんの本音であり、家庭や配偶者をないがしろにすることの結果は、自分の期待通りにはならないのが現実です。

夫婦仲の不和から生じるのが家庭内別居ですが、そんななかで外に恋人を作ることのリスクは、慰謝料の請求や離婚する際に有責配偶者となる可能性など、知られた後は大変であることがほとんどです。

道を外れた自分をあえて配偶者に見せる理由が何であれ、こんな一大事には冷静に向き合うのが最善。

悔いのない今後のために、慎重な判断を重ねたいですね。