これからの音楽業界が向かう先は「兼業制」?
――では、これからの音楽ビジネスの形は、どういう方向に向かっていくと思いますか?
武瑠 マネージャーがメンバーであったり、マネージャーがギターも弾けたり、照明ができたり、PAができたり……そういう「演者が何役も兼ねる」みたいな状態になっていくと思いますね。ミニマムな形になっていく。
極端なことを言えば、バンドであればメンバー5人がいればライブが成り立つ、みたいな形になっていくかもしれない。本来5人もメンバーがいたら、できないわけがないんですよね。それを、今まではCDが売れてたからスタッフをいっぱいつけることができたわけで。
これからは、業界全体が少数精鋭制になると思います。だからこそ、技術を持つ人とそうでない人の差がどんどん開いていくと思います。
――武瑠さんが思う、今後の音楽業界の課題とは?
武瑠 そんなエラそうなことは言えないんですけど……自分視点で言うと、日本の音楽業界は「音楽だけやっているのがエラい」という風潮なんですよね。音楽とそれ以外のビジネスをミックスすると、中途半端になりやすいと思うんです。
例えば、海外のラッパーだったら自分のブランドを持ってるのは普通だし、広告とかも当たり前にやっている。そもそも音楽だけじゃ儲からないからビジネスをたくさん持っているんです。今の日本の音楽業界では、そういった仕組みが発達していない。アーティストがアイコン化されづらいんですよね。
日本人は、ひとつのことだけ頑張ってる人を応援したがるから。職人的な、ひとつの技術をずっとやってきた人がカッコいいと思われる。クラフトマンシップというか……それが根底の美学としてあるんだと思うんですよ。
だから、そういう部分はもっと変わっていっていいと思いますね。
――音楽アーティストは“職人であること”を求められているんですね。
武瑠 そういう風に、めちゃくちゃ感じます。「音楽だけずっとやっている」というアーティストの方が、圧倒的に評価されやすい。
それが悪いとか問題だというよりは、自分的にブレイクスルーしたいポイントなんです。そういう部分を切り拓いて、新しい音楽ビジネスの形を考えたいですよね。
“自分が”ジャンルレスなんだという自覚はあります
――では、武瑠さんから見て、もともとの出身畑であるヴィジュアル系が今どういう風に見えるのかをお聞きしたいです。
武瑠 一旦“型に戻った”という感じがしますね、今のヴィジュアル系は。受け継がれてきた伝統の方に戻っていった。
2018年現在は、今までいた挑戦型アーティストが死んでいったと感じます。逆に言うと、ヴィジュアル系業界での“挑戦”は成功し切れなかった。
やっぱり本来あった世界観に忠実で、そういうものを体現できているアーティストの方が人気があるように見えますよね。“古き良き”みたいな。
――ヴィジュアル系が懐古主義的になってきている、ということでしょうか?
武瑠 懐古主義というよりはむしろ、昔ながらのヴィジュアル系の良さを自分たちなりに出しているアーティストが、人気が出てきていると思いますね。別にそれが良い悪いではなく、そういう現象だと思うし、自分は真逆のタイプだったというだけ。
だからこそ、俺は今はそこ(ヴィジュアル系)にいるべきじゃないと思ってますね。“古き良き”とはほど遠いし……。最初から俺みたいなのをジャンルで定義すること自体に無理があったのかもしれない。ずっと違和感を感じていた部分もあったので……。
ずっと、何となく「狭苦しいな」って思ってきた。「ここにいるべきじゃない」って。だから、ヴィジュアル系がどうとかじゃなくて、“自分が”ジャンルレスなんだという自覚はあります。何か自分を定義できるもの、欲しいとは思いますけどね。