■特撮OLの持つ“業”

ここまで読んだ人は、もしかしたら「いまどきオタクをオープンにしてる人なんて多いんだから、そこまで隠さないでいいだろ!」「ツイッターで日曜朝の実況してるようなOLなんていっぱいいるだろ!」と思うかもしれません。でも、いまあなたが思い浮かべた「ニチアサの実況をしてる女子」は、若手イケメン俳優好きが大半だと思ってください。特撮もテニミュ(『テニスの王子様』のミュージカル)も同列で観てると思います。

でも『トクサツガガガ』の主人公・仲村さんは、特オタの中でも希少種。変身後の姿のグッズとかも集めてる女子なのです。作中では、特オタであることを隠すために「俳優が好きだから観てるだけですよ」という発言をしたこともありますが、その後「本当はこんな手、使いたくないんやッ!」「たとえそのほうが生きやすくとも! わたしはイケメンじゃなくて特撮が好きで観ているの!!」というこだわりのために自己嫌悪に陥るという、めんどくさいタイプのオタクです。

「イケメンが好きだから特撮を見る女子」というのは、ジャニオタなんかとも共通する部分があるわけで、女子の趣味として少なからず市民権は得ているし、周囲の女友達にも言いやすいと思います。でも「特撮は見るけど、イケメンが好きなわけじゃない女子」というのは、要するに「子供向けのものが好き」「それも男児が見る前提で作られているものを好き」という後ろめたさを背負っているわけです。

なのでこの漫画は、オタクあるある漫画に見られる「マイナーなものが好き」というツラさだけでなく、「女なのに男の子が好きなものが好き」というツラさと向き合うシーンもちょいちょい出てきます。

例えば仲村さんの母親は、「女手ひとつで娘を育ててきたので、自分が我慢してきたかわいい物を娘に与えるのが愛情と信じて疑わず、娘の特撮好きを憎んでいる」という非常に嫌な、でも「あるある」な存在です。しかも自分が離婚しているので「良い結婚」に幻想を抱いてるし、「女らしくしないと結婚できないよ」とか言ってくるわけです。ツ、ツラい…。

この母親が上京してくる回は一応、「母を悪の敵幹部に見立てながら必死に戦うも惨敗」っていうギャグっぽい感じのストーリーになってるんですけど、もし僕が同世代の未婚OLだったらすげえヘコんでると思います。この漫画、雑誌上でのキャッチフレーズは一応「隠れ『特撮オタク』OLの爆笑デイズ!」なのに、全然笑えないときが多々あります。いい意味で。

仲村さんが、数少ない友人・吉田さんといわゆるヒーローショーの会場で出会う回もなかなかツラいです。吉田さんは仲村さんより10個ぐらい年上なんですけど、同世代の友達の子供が持ってるおもちゃを見て「シシレオーの武器だ、いいよね」と話しかけて、そのママに「子供いないのにどうして知ってるの…?」と問いかけられたことで特オタ引退を考え、「こういうのを見るのも最後かもな」と決意しながらショーを見るんですよ。

対する仲村さんは、ショーを楽しみつつも「初めて地元にショーが来たとき、私もう4年生で、『大きいんだから、そんなの観るのはみっともない』って凄い怒られて。だから今日もわたしみたいな大人は来ちゃいけないとは思った」と思いながら見てることを告白。

すると吉田さんが「そんなことはないと思います」と優しく諭すんですが、友達に「子供いないのにどうして知ってるの…?」と言われたときのことを思い出しながら、自分に言い聞かせるように優しい顔で話します。

「好きなものに年とか性別とか関係ないと思います。仲村さんが、決めていいことです」

と言ってくれるわけです。虐げられがちなジャンルのオタをやっている人はぜひともこの漫画を読んで、いままでツラかったことを思い出して、吉田さんに向かって「あのね、こんなことがあってね」って吐露するといいと思います。

この発言には仲村さんも半泣きで「そうか、そうだよね…」って感動するんですけど、このあとに吉田さんが菩薩のような顔で「だから仲村さんも遠慮せずにショーを観にいきましょう」と言いつつ、「ズル…」というグロい擬音でごついカメラを出してきて、物凄い勢いで写真を撮る姿に仲村さんドン引き、というオチがついたりします。こういう感動かと思ったらそれで終わらないみたいな構成が毎回めちゃくちゃうまいです。