ついに明治維新へ向けて動き出した大河ドラマ「西郷どん」。第27回では長州軍と幕府軍が京の町で激突する“禁門の変”が勃発した。その激戦の最中、長州軍を率いる来島又兵衛(長州力)を得意の銃で討ち取ったのが、薩摩藩士・川路利良。以後、西郷吉之助(鈴木亮平)の下で戦い抜きながらも、明治維新後にたもとを分かち、「西郷暗殺の刺客を送った男」と呼ばれることとなる。演じるのは連続テレビ小説「ひよっこ」(17)で注目を集めた若手俳優・泉澤祐希。役に込めた思いや撮影の舞台裏を聞いた。
-今回の出演が決まったときの感想は?
大河ドラマへの出演は3回目になりますが、これほどしっかり芝居をさせていただくのは今回が初めて。だから、とてもうれしかったです。歴史上の人物を演じるときは、何をした人なのか実感が湧かないことも多いのですが、川路さんは警察を作った方とのこと。それを知って、責任を感じるのと同時にやりがいを覚えました。
-禁門の変が描かれた第27回では、初登場でいきなり長州の来島又兵衛を討ち取る見せ場がありましたね。
まるでスナイパーです。僕はアクション映画が好きで、スナイパーが主役の映画を見たときも「かっこいい!」と思っていたのですが、まさか自分がやることになるとは(笑)。とはいえ、来島を討ち取る場面は、その功績で川路が認められていく上に、物語も大きく動く部分なので、大事に演じさせていただきました。
-演じる上で工夫した部分はありますか。
川路は、銃を撃つときのフォームも他の兵とは違うんです。照準を素早く定められる腕前を持っているので、そういうところで差別化を図るように、どんなフォームがいいのか、銃の先生と相談した上で撮影に臨みました。ただ、その銃がものすごく重くて…。当時の本物と同じ重さなのですが、これを持ちながら走って戦っていたのかと思うと、改めてすごいなと。
-川路はこれから吉之助の下で幕末の動乱を戦い抜くことになりますが、川路にとって、吉之助はどんな存在でしょうか。
先生です。いろいろな意味で大きい存在で、すごく懐が深い。今は全てを任せて、信じて付いていこうと思いながら演じています。
-史実では、川路は後に西郷とたもとを分かつことになりますが、そのあたりは意識していますか。
まだ全然考えていません。今は意見の相違もなく、どう一緒に行動していけばいいのかと考えている段階なので。明治維新が実現して警察ができた後は、考えも変わってくると思いますが、それはそのときに考えようかと。ただ、藩のため、みたいな小さな理由ではなく、日本を良くしたいという、国全体のことを考えての行動だったんだろうな…とは思っています。
-吉之助を演じる鈴木亮平さんの印象は?
とてもストイックです。せりふの言い方はもちろん、歩き方やたたずまいも常に意識されていて。リハーサルの場でもずっと「こうした方がよくなるんじゃないか」と考えていて、「川路がこのせりふを言った方が、場が締まるんじゃない?」などと提案していただいたり…。常に作品のことを考えているその姿勢は、ものすごく尊敬します。
-鈴木さんとはどんなお話を?
仕事の話はそれほどしていませんが、一緒に筋トレに連れて行ってもらっています。現場に行くと皆さん体がすごく大きいので、一緒にいる僕が子どもみたいに見えてしまうんです。そこで「鍛えたい」と相談したら、トレーニングの方法を親身になって教えていただきました。今はそこが大きなコミュニケーションの場になっています。
-一方、川路は中村半次郎(大野拓朗)と一緒に行動することが多いようですが、2人の関係はどう捉えていますか。
実際は常に意識し合っているライバルのような関係だったそうです。一つ間違えたら、斬り合いになりかねないようなピリピリした雰囲気だったとか。ただ、このドラマではそこまでではないので、程よい緊張感を保って演じていけたらと。
-2人の間にはコンビ的な雰囲気もありそうですね。
ボケとツッコミ、みたいな感じですね。特に意識しているわけではないのですが、半次郎が何をしでかすか分からないので、気になってしまうという…。
-後に「西郷暗殺の刺客を送った男」と呼ばれる川路ですが、どんな人物だと捉えていますか。
正義感の強さに加えて、自分の信念をしっかり持っている人です。薩摩隼人らしく無口な人ですが、心の中には熱いものを秘めていて、それが「チェスト!」という掛け声になって出てきたりもする。その反面、会議の場などでは西郷先生を持ち上げるばかりでなく、相手の意見もきちんと聞き、納得すれば受け入れる冷静さも持っています。
-その川路をこれからどんなふうに演じていこうと考えていますか。
一見怖そうに見えますが、実はとても優しくて、人に対して怒ったことがないそうです。その上、かまぼこが大好きで、あまりに大量に買っていくので、お店の人から「あいつは料理屋か」と言われたという逸話も残っているとか(笑)。そんなところも踏まえて、熱さと冷静さのメリハリをつけながら、僕なりの川路を演じていきたいです。
(取材・文/井上健一)