原宿の”すごかったマンガ”ベスト3

    

原宿
愛と勇気のお笑いメディア「オモコロ」の編集長。好きなパスワードは「とうきょうとたいとうくこまがたばんだいのがんぐだいさんぶのほし」

 

 

3位

2位

1位

僕の父親は、僕が2歳半の時に亡くなっていて、その後だいたい女手ひとつで育てられてたわけですが、そこは母親も女ですから、未亡人になってからいい感じになる男もいたわけです。

僕が小学生の頃、母親とそういう仲になったおじさんは資源再生会社かなんかの社長さんだったんですが、そのおじさんが家に来る時に必ず買ってくる漫画雑誌があったんです。それが「ビッグコミックオリジナル」でした。

それまでの僕の愛読書と言えば、もっぱらコロコロとボンボンでしたが(特に好きだったのはボンボンの「やっぱ!アホーガンよ」です。うんばらほ!)、退屈しのぎでめくってみた「ビッグコミックオリジナル」でポコチンやミニ四駆だけが漫画じゃないということを知ったのです。

22~3年ぐらい前のビッグコミックオリジナルというと、「家裁の人」、「おかみさん」、「STATION」、「玄人のひとりごと」なんかが連載していて(「浮浪雲」、「釣りバカ日誌」、「三丁目の夕日」がその頃からずっとやってるのが恐ろしい)、正直サッパリ意味のわからない漫画もあったんですが、中でも心を掴まれたのがこの「MASTERキートン」でした。

特殊部隊仕込みの格闘術とサバイバル技術に長け、紳士的で知識と行動力に富み、ドナウ文明の伝説に夢を馳せることも忘れないタイチ・キートンは、子どものころからずっと僕の憧れの存在です。

キートンの誠実さと勇気が胸を打つ、第一巻の「砂漠のカーリマン」とかもう最高で、砂漠に投石機を持って立ちはだかるあの姿を思い出すだけでも、今ちょっと泣けます。

ドーベルマンにコショウを投げつけると怯むという知識も、この漫画で覚えました(使う機会はありませんが)。

僕にビッグコミックオリジナルを教えてくれたおじさんとは20年ぐらい会ってませんが、20年後のキートンを描いた「MASTERキートン Reマスター」の単行本は今年発売されました。あのおじさんも今どこかで読んでいるかもな、と思います。

 

 

小野ほりでいの”すごかったマンガ”ベスト3

  

小野ほりでい
オモコロ」や「トゥギャッチ」、「DIGITAL BOARD」などでイラストと文章を一生懸命書いているネットチンピラ。

 

 

 

3位

数十年前まではど・メインカルチャーだった大島弓子の作品ですが、いかんせん今の若い人は知る機会が少なく好きだというとサブカル野郎の烙印を押されてしまうかもしれません。

しかしそんなやつがいたら「馬鹿」と言ってやりましょう。おしゃれ系を抑えてる本屋に行けばそのころの「ダリアの帯」「つるばらつるばら」「ロングロングケーキ」「ロストハウス」などの文庫が並んでると思いますが、どれも漫画を描き続けた人間の老練の極地たる表現が見られると思います。

表題作「ダリアの帯」は頭を打ってチューニングのずれた妻に悪戦苦闘する夫の話ですが、ハッピーエンドならずも胸をすく結末を迎えます。

子供の頃から何も考えず読んでいて最近になって気付いたのですが、これらの作品はけっこう「SF」で、SFというのはとんでもないことが起きて人間の感情が振り回されるのが常なのですが(そうです、人生と同じです)悲しいことを悲しいままに、わけのわからないことをわけのわからないままに終わらせないのが、その素晴らしいところだと思います。

私が大島弓子を「サブカルチャーじゃない」と強く思うのは、つらいはつらい、悲しいは悲しいままで感情を主役に据えたりせず、その外から思いもよらない視点で温かい結論を導いてくれるからです。

これらの漫画を人に勧めて、まあ結構な確率で「結局読んでくれなかった」ということになるのですが、こんなにいい漫画がしょうもない人に読まれなくてよかったと心底安心します。なので、できれば誰にも読んでほしくないという気持ちを込めての3位です。 

 

2位

全部おもしろいですが、特にG.I.編のドッジボールは自分の思っていた「そうはいっても漫画の面白さの限界ってこのへんだろう」という天井を突き破られました。

同じように天井を破られた瞬間は、キャシー塚本に扮した松ちゃんがジャンボ餃子で窓を割った瞬間、スコット・ピルグリムの映画で主人公の出したゴリラがカタヤナギ兄弟の龍と戦い始めたシーンの2つだけです。

こういった場面であんまりメジャーな漫画を上げるのはダサいと知ってはいるのですが、時折そんな凄凄マンガを読んだことがない人に遭遇して仰天させられるので、あえて2位に据えました。

 

1位

自分で自分のことを繊細だなんて言えるのはむしろ神経が図太い人だと思うのですが、この作者はその意味では人一倍メンタルが弱く、つらい生活を送っていながら「チンピラ」を自称して憚らない、信頼のおける人物です。

同じ作者のもっと昔に刊行された「僕の小規模な生活」で「自分が不幸なのは環境のせいではなくて多分性格の問題」というようなことを言っているのですが、結婚して子どもができて、心ない2chユーザーに「そうは言ってもリア充だろ」みたいなことを言われても一向に作者の生活が羨ましく見えないのは、やはり「性格のせい」というのが的を射ていたからでしょう。

私たちは平生「あれがないから」「これができないから」というように自分の不幸に理由をつけたがりますが、この作者の漫画を読むと「あ、つらいのって一生終わらないんだ」と直感できますし、それがかえって「つらいままでも生きていけるんだ」という秋晴れの空のように爽やかな一種の諦観をもたらしてくれます。

「がんばればしあわせになれる!」というようなスポ根漫画とは真逆ですが、なぜか(ひとつの犠牲を伴って)ポジティブな気持ちにさせてくれる漫画なのではないでしょうか。「うちの妻ってどうでしょう?」も同様にオススメです。