芳文社の「週刊マンガTIMES」で連載中の『信長のシェフ』(作画:梶川卓郎、原作:西村ミツル)は、現代の料理人、ケンが料理の腕前を見込んだ織田信長に仕えて、歴史の流れに関わっていく漫画だ。ケンは近代的な調理器具などなく材料も十分に揃わない中で、創意工夫を凝らして戦国時代の人々を唸らせる料理を作り上げていく。

 タイムスリップを起点としているのは『信長協奏曲』と同じだが、ケンが歴史的には存在しない人物の点で大きく異なっている。ケンが料理の腕前一本で生き抜いていく様子は、読んでいて痛快なものがある。まさに“芸は身を助く”だ。一部の記憶を失ったケンだが、信長の行く末を含めて歴史の流れを憶えており、ケンの言動次第では歴史が大きく変わってしまうと認識している。その微妙な立場の中で、ケンがどう生きていくのかが楽しみだ。

 白泉社の「ヤングアニマル」で連載中の『信長の忍び』(重野なおき)は、コメディ色の強い4コマ漫画だ。ストーリーは歴史の流れに沿っているものの、キャラクターをより楽しめるものへと変えている。普段は冷徹だが甘いものには表情が緩む信長(信長の甘いもの好きは史実通り)に、いつまで経っても使いっぱしりの秀吉や、顔や体型と共に心も丸い家康など、戦国時代の登場人物が笑えるキャラクターになっている。

 漫画は若き日の信長に危ないところを救われた少女の千鳥が、信長に仕える忍者となり、陰から信長の天下統一を支えていく展開が続いている。舞台が戦国時代だけに、命のやりとりをする場面もあり、心に響く話も少なくない。笑いながらも涙すると言っては過言かもしれないが、まさに波乱万丈の起承転結だ。歴史の流れからすれば、当然信長は本能寺の変で命を落とすことになるだろうが、果たして千鳥がどのような行動をとるのか。けなげに戦う“くのいち(女忍者)”だけに、なんとかハッピーエンドになって欲しいと願わざるをえない。

 オリジナリティ具合の差はあっても、どの作品も信長キャラの強烈な個性は変わらない。もっと簡単に言ってしまえば、「やっぱり信長はカッコイイな」と。もちろん他の歴史上の人物でも、物語として成立させることはできる。しかし信長と同等以上に読み手を引きつけることができるかと言えば疑問だ。だからこそタイトルに“信長”と入っているのではないだろうか。「結末の分かった物語は面白くない」と言われることがある。しかしそれが正しくないのは、歴史ものが数多く生み出されているのを見れば明らかだ。ここに取り上げた信長達が、連載が進むにつれてどのような歴史をたどっていくのか。ぜひ一読して欲しい。

あがた・せい 約10年の証券会社勤務を経て、フリーライターへ転身。金融・投資関連からエンタメ・サブカルチャーと様々に活動している。漫画は少年誌、青年誌を中心に幅広く読む中で、4コマ誌に大きく興味あり。大作や名作のみならず、機会があれば迷作・珍作も紹介していきたい。