BCNのインタビューに応えるログミーの川原崎晋裕社長

<KeyPerson> イベントや著名人の対談などの書き起こしメディアで20代~30代の若者ビジネスパーソンから注目されている「ログミー」。最近では、企業の決算説明会やIRの「書き起こし」に特化した「ログミーファイナンス」や、今年6月からはエンジニア向けイベントに特化した「ログミーTech」などを矢継ぎ早にリリースして水平展開する。そもそも、なぜ「書き起こし」なのか、なぜ動画ではなく「テキスト」なのか。川原崎晋裕(かわはらさき・のぶひろ)社長に聞いた。


写真・取材・文/細田 立圭志

最初の発想はクラウドソーシングだったけど……

ーー われわれの業界では「テープ起こし」といいますが、そもそも「書き起こし」に着目したきっかけはなんですか。

一番最初は、動画を見るのが面倒くさかったというのが、ログミーをつくったきっかけです。ログミーは2013年5月に、私がサラリーマン時代(株式会社サイゾーに勤務)にサービスをリリースしました。会社を設立したのは13年8月。そのころ、見たい海外の動画があっても、「書き起こし」がありませんでした。そんなときに、友人の起業家とクラウドソーシングという手法を使えば、できるのではないかなどという話をしてました。試してみたところ、反響がすごかったので、事業化したのが最初です。

ーー 「書き起こし」は労働集約的でコストも時間もかかりますが、クラウドソーシングを使えば空き時間の活用やコスト面も抑えられると。

そうですね。最初は動画を見るのが面倒でつくったというのが動機でしたが、その後、(大手メディアなどの)偏向報道に対して、ちゃんとログを残してしっかりと全文で確認できるようにしたことと、遠かったり、忙しかったりしてイベントに参加できない人が、トークの内容を知ることができるという、イベントが抱える課題の解決にもつながりました。また、時代にあっていたというのもあると思います。

ユーザーは、テレビなど編集したコンテンツに対する気持ち悪さのようなものを感じているから、ライブストリーミングが増えているのだと思います。作り込まれたコンテンツよりも、素人がゲームしている実況をだらだら生配信している方が受けています。泣かせようとか、笑わせようとする制作者の気持ち悪い意図のようなものが見えない方が、受け入れられているのです。

ーー 川原崎社長から見ると、気持ち悪い意図なんですね。これまでは、そうしたストーリーに乗りたいと思う視聴者も多かったと思うのですが。

どんどんそういう風潮になってると思います。報道を変えるという意義づけや、イベントの利便性の向上、編集されてないコンテンツをみんな読みたいんだということは、実は、後からいろんな方々が意味づけしていったものなのです。

ーー 外部のクラウドソーシングで書き起こす人は何名ぐらい登録しているのでしょうか。

実はそこが大変だったポイントです。クラウドソーシングはクオリティーのコントロールができません。書き起こしライターを募集すると、すごい人数が集まりますが、教育ができません。ですので、自社で外部ライターのチームを稼働ベースで約100人ぐらい抱えています。

ーー 専門のライターもいるでしょうが、例えば主婦の方たちが「ログミーファイナンス」や「ログミーTech」など、専門性の高い書き起こしをできるのでしょうか。

単純に、書き起こした原稿を、このように直してほしいとフィードバックする地道な作業です。聞き取り不明なところを、こちらで聞きなおしたりして。そうするうちに、レベルが徐々に上がってきます。専門ライターでない方が、「ログミーTech」の書き起こしをしてますから。

なぜ動画ではなく「テキスト」なのか

ーー 記者会見をそのままストリーミング配信するメディアもありますが、ログミーが面白いのが、動画ではなく、文字なんだという点です。通常、コンテンツは文字から写真、写真から動画と、情報量がリッチな方に向かいますよね。ログミーは逆に「テキスト」にこだわってます。

なんでも動画とういうのに疑問をもっていて、動画に合うコンテンツは動画にすればいいのです。猫の動きが見たければ動画がいいでしょうし、いい景色が見たいなら写真の方がいい、情報が知りたいだけなら文字の方が取得しやすいのです。

ーー 「イベント」を書き起こすという着想はどこからきたのですか。

正直に言って、最初はネット上の動画を書き起こすメディアとして立ち上げましたが、ネット上にそんなに面白い動画がなかったんです。書き起こすものが増えないときに考えたのが、イベントです。結局、動画コンテンツの元は、イベントや対談、取材なのです。録画はしてもウェブにアップしてないなど、イベントの1%もウェブ上に存在しないのではないかと。だったら、大本であるイベント自体を自分たちで録画して書き起こそうかという発想になりました。

ーー その場にいる臨場感を共有できるのが動画のメリットだと思うのですが、なぜわざわざ文字に書き起こすのですか。

映画のように、すごく作り込んでいるものを2時間かけて、お金を払ってでも映画館でみる価値はあっても、対談やパネルディスカッションの多くは、動画にしたときに編集をしていないので、コンテンツとしてはリッチではありません。1日24時間という限られた時間のなかで、イベントの動画を2時間かけて見るだけのクオリティはないと思います。

イベント事業にもかかわっているのですが、イベントは情報を取得するために行くのではなく、好きな仲間や登壇者と同じ場所にいるとか、参加者との交流などに価値があるのです。イベントの本当の価値は、動画では再現できていないと思います。体験価値を知りたいならその場に行くしかないですし、情報を知りたいだけなら、書き起こしで十分なので、動画は中途半端です。

ーー逆に書き起こしの良さとは。

1時間のイベントが10分で読めるので情報取得のスピードが速く、時間効率を上げられます。メモをとる必要がないし、内容をシェアしやすい。また、イベントにかかわっていて気づいたのは、人はあまり上手に話せないということです。他社をディスっちゃったり。報道に関しては、パブリックな場で発言したことなので言質をとってそのまま載せますが、イベントはちょっときつく言い過ぎたとか、間違っちゃったことがあるので、内容を確認してもらって、本当は何を伝えたかったのかをログミー上では伝わるようにしています。

マネタイズはクライアントから

ーー ログミーとしての収益源はPVなのでしょうか。

単純にPVを上げたければ芸能人ネタを取り上げたり、釣りタイトルやみんなと同じものを書けば取れます。それだと独自性がなく、自分たちがやる意味はあまりないと思うので、PVをお金に変える手法はログミーでは、最初からやならいと決めていました。なぜなら、明らかに正しくないからです。

最初から、直接、クライアントからお金をいただくというマネタイズ手法です。当時、人材事業の企業などから新卒説明会などのイベントを書き起こして、それをシェアすることで、広告掲載費というかたちで対価をいただいていました。

CMを流すときに、映像制作費でお金をいただくのではなく、テレビに流すことで対価をいただいているのと同じです。ログミーのユーザーに、自分たちのコンテンツを届けたいからということでお金をいただいています。ログミーを読んでるような学生や社会人を採用したいという目的のほか、マーケティングやPR、ブランディングなど多岐にわたります。また、ログミーの読者はインターネットのリテラシーが高く、話題になった記事はSNSなどで話題になったりするのです。

ーー どのようにして300万人のユーザーが集まったのでしょう。コンテンツをコツコツと増やしていくにしたがって、リテラシーの高いユーザーが集まったのですか。

そうですね。とくに何かをしたということはありません。もちろん細かいテクニックはありますが、あまりSEO対策やソーシャル対策を頑張ることはしてません。ルールが変わるとなくなってしまうので。

ーー クライアントがつくまでどうしていたのですか。書き起こしには人も時間もコストもかかりますが。

ほかの起業家と変わらないのですが、ウェブのコンサルティングをしてお金を稼いで、ログミーに投資していました。それ以外は普通のメディアと同じです。第三者であるわれわれが載せているというのも同じですし、ただ、「ログミーだから長文でも仕方ないか」というのはあるかもしれませんね。