本日2月3日(金)は節分です。節分とはそれぞれの季節が始まる日(立春、立夏、立秋、立冬)の前日のことですので、都合1年に4回あるのですが、いつの頃からか2月3日だけが有名になってしまいました。これが豆まき効果だとするならば、やはり食べ物は強いなあと感じます。

  最近では太巻き(恵方巻き)が幅を利かせつつあります。スーパーやコンビニエンスストアでは年明け早々から「お節料理の次はこれだ!」とばかりに予約が始まります。しかも昔ながらのカンピョウや桃デンブの太巻きだけでなく、海の幸をたくさん巻いたり、ご飯の代わりにうどんや蕎麦を巻いたものも売られています。商魂の逞しさここにありですが、ちょっとの工夫で満足や幸せを得られるなら、それも良いのかもしれません。今年の恵方(縁起の良い方角)は北北西なんだとか、3日には北北西を向いて恵方巻きを頬張る人がたくさん居そうです。

  話を元に戻して豆まきです。「鬼は外、福は内」と叫びながら豆を撒くのは、季節の変わり目に邪気が生じやすいことから、それを追い払うための行事なのだそうです。各地の寺社では、タレントやスポーツ選手などを招いて豆まきが行われます。なぜ豆なのかは諸説ありますが、「マメ」に「魔滅」と当て字をしたという説などは、発想力の豊かさに目を見晴らされます。

  節分では邪険にされる鬼ですが、印象的なキャラクターでもあるため、漫画の中では様々に活躍しています。今回はそんな鬼の登場する漫画を紹介しましょう。

 

  まずは講談社の『週刊モーニング』で連載中の『鬼灯の冷徹』(江口夏実)です。漫画の舞台は地獄です。地獄と聞けば、閻魔大王を思い浮かべるのではないでしょうか。主人公の鬼灯(ほおずき)は、閻魔大王の補佐官を務める一本角の鬼です。たまに遊ぶこともあるんですが、基本的には真面目一徹、さぼりがちな閻魔大王ですら、厳しく叱咤激励する官僚の鏡みたいな存在です。もはや彼無しには地獄は運営(するものかどうかは不明ですが)できないほどの立場になっています。

  ギャグやコメディー満載の漫画なので、閻魔大王を始め獄卒(地獄の役人)や罪人もふざけたキャラクターが多いのですが、主人公の鬼灯は、数少ない突っ込み役としても存在感を示しています。閻魔大王以上に鬼灯を重んじているキャラクターもいるようですが、あくまでも鬼灯はナンバー2に徹しているようですね。それはそれでオイシイこともあるでしょうし、彼の生き方でもあるのでしょう。

  ちなみに本作は、毎年注目の作品が集まる「マンガ大賞」の最終ノミネート15作品に入っています。つまりは今話題の作品の1つと言えるでしょう。ライバルとなった14作品もいずれ劣らぬ良作なので、大賞に輝くかどうかは分かりませんが、期待しながら見守りたいと思います。

 

  次は少し前の漫画ですが、小学館の『少年サンデー増刊号』に連載されていた『鬼切丸』(楠桂です。1992年から10年以上連載されていた作品で、コミックスにもなっていますが、文庫版の方が入手しやすいかもしれません。題名の“鬼切丸”は主人公の少年(名前が無く外見は中学生か高校生)が持つ刀のことで、転じて少年を指すこともあります。パッと見ると、どこにでもいそうな少年で、角や牙があるわけでもないですし、まして虎皮のふんどしをしているわけでもありません。ただそれだけに“鬼切丸”の刀を持つ姿は異様でもあります。 

  漫画の中で、全ての鬼を切り殺せば人間になれると信じて、少年は鬼切丸を使い鬼退治していきます。当然、仲間であるはずの鬼達からは敵とみなされ、憧れの存在であるはずの人間からも疎まれてしまいます。最初の方は出会った鬼を切りまくる悲哀一辺倒の話ばかりだったのですが、修業をして鬼を退治能力を持った人間の裏僧枷(うらそうじゃ)や、敵でもなく味方とも言えないキャラクターの鈴鹿御前が登場するあたりから、ほんのわずかですが明るい兆しのようなものが感じられました。それでもどちらかと言えば暗いムードの漂う作品で、サンデーの中では異端度の強い作品だったと思います。

 

  最後は朝日新聞出版の『ネムキ』で連載中の『百鬼夜行抄』(今市子)です。これまでに書いたように“鬼”と言えば、角や牙があって虎皮のふんどしをして、金棒をもって……のイメージが強いですが、広い意味では、妖怪や化け物や幽霊のような、怪異の存在全てを示す言葉でもあります。この『百鬼夜行抄』では、霊感の強い大学生の飯嶋律が、様々な怪異の存在と関わるストーリーが展開されます。 

  ただ律は妖怪退治をするとか、除霊能力があるわけでもなく、どちらかと言えば普通の人間に近い存在に描かれています。それだけに彼が災厄に巻き込まれていく様子は、読んでいる読者もハラハラドキドキさせられるのではないでしょうか。全く無事ではないものの、律や周囲の人間にとっては日常の生活が漫画の中では過ぎていきます。後々大きな災厄につながりそうな伏線も垣間見られるのですが、果たしてどうなるかは連載を待ちましょう。


  2012年も1ヶ月が過ぎました。昨年の騒がしさに比べればいくらかマシではありますが、政治を見ても景気を見ても先行きは明るいものではなさそうです。「人は鬼にも邪にもなれる」と言います。残酷な事件のニュースを聞けば、さもありなんと思います。まずは節分でしっかり邪気を払っておきましょう。

あがた・せい 約10年の証券会社勤務を経て、フリーライターへ転身。金融・投資関連からエンタメ・サブカルチャーと様々に活動している。漫画は少年誌、青年誌を中心に幅広く読む中で、4コマ誌に大きく興味あり。大作や名作のみならず、機会があれば迷作・珍作も紹介していきたい。