2月25日に待望の最新アルバム『L-エル-』をリリースするAcid Black Cherry。その魅力をV系に造詣の深い音楽評論家の市川哲史が徹底分析!新たなyasuの魅力に気づけるかもしれません。
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――Acid Black Cherry(以下ABC)の人気の理由って一言でいうとなんだと思います?
市川:ABCって本当に売れてるんだ!?
――今日はそこを聞きに来たんですよ(笑)!
市川:くくくく。そもそもJanne Da Arcの場合は、キャリアを積むとともにバンド男子的なファンが増加して、ソロ活動前の段階では客層が男女半々といっても過言ではなかったじゃない? 頭に乗ってコピバン・イベントまで開催するほどの、<楽器少年ズ・ミュージシャン>として立派に成立してたもんねぇ。だけどABCはもう一度「いかがわしさ」にたち還ったというか、ヴィジュアル系(以下V系)やそもそもロック自体に免疫の薄い普通の女子たちを、改めて捕まえたって感じがあるよね。
――「普通の女の子」に響くyasuさんの魅力とは。
市川:私こそそれ訊きたいわ。yasuってどう映ってるのファンの婦女子には。
――えっ? うーん…、私見ですが「唄が上手くてイケメンでかっこ良くてちょっとエッチで面白いロックシンガー」といった感じでしょうか。
市川:要はV系って、己れの特殊な世界観を自信満々に見せつける行為だったわけ。それが特異であれば特異なほど、過剰であれば過剰なほど面白かった。
でもyasuはそうした怪獣揃いの第I期V系者ではなかったし、00年代の忠実なフォロワーでもないし、その後の「ただV系が好き?」の連中でもない。
そのうえで、ジャンヌのインディーズ・デビューから数えれば17年選手のyasuはなぜ、ABCで独自の立ち位置にいられるのかというね。
で誤解を恐れずにいうと――yasuって基本的に、V系アーティストならではの特殊な世界観が無いじゃない?
――そうそうたる特殊エピソードのある歴代のV系の先輩に比べたらそうでしょうね。
市川:V系の「業」みたいなものがさ。もちろん通常仕様の世界観はyasuにもあるわけだから、業がない分だけ一般性を担保できてるのではないでしょうか。
――「業が無い」というところが、楽曲の大衆性につながってるというか。
市川:そうそうそう。重かったり暗かったり変だったり過剰だったりという「業」は無いんだけど、モノを作る人間としての使命感はあるわけですよ。特にその表現意欲は、普通のアーティストよりも濃い。というか丁寧なんだよね。なんかロック的というより、アニメとかゲームとか漫画とかのファンタジー的な作法に近い。
これはゲーム少年で漫画家志望という、見事なまでに偏った彼の思春期に端を発してると思うんだけども。自作の「冒険物」ゲームブックに、エレクトーンで作った『ドラクエ』をパクったようなゲーム音楽までつけてたという、立派なファンタジー少年だった時代に(苦笑)。