――そういう意味では独特の位置ではあるんですよね、ABCって。それはV系内のみならず、邦楽ロックシーン全体から考えても。
市川:ライヴの客席を観察すると、同じ女子でもバンギャやギャルばかりではなく、意外に一般女子が多くて驚かされます。
――…「ちょっと強めのOLさん」みたいな?
市川:ぎゃははは。その昔はさ、強めのOLさんやら強めの女子大生さんやらの音楽的な受け皿があったわけじゃん。女性歌手というね。
――例えば古くて申し訳ないんですけど、工藤静香とか?
市川:そうそう、昭和歌謡でいうと中森明菜とか工藤静香とか。アン・ルイスもそうかも。要は彼女たちの楽曲を唄うことで憂さが晴らせる、みたいなね。
――あ、90年代でいうと久宝留理子とか……ていうかさっきから名前上がってるのは、yasuさんが『Recreation』でカバーしてる人が多いですね(笑)。
市川:だからそういうことなのよ(我意得笑)。つまりABCは男でありながら、強めの女子のための愛唱歌を発信しているという、いまどき稀少なロックシンガーなのです。
――キーが高いので女性も歌いやすいですからね。
市川:わははは。そういう受け皿に飢えてる女子はいつの時代にもいるはずなのに、現在のJ-POPではそれが成立しないから、ABCはありがたい存在なんだよきっと。
――ロック系の女性ソロシンガーだと今は「ギター女子」みたいな人が多いんですかね。
市川:基本的にそういう人の歌詞は自己啓発系ばっかじゃない? となるとヤンキーも含めて「強めのお姉さん」たちがグッと来るものって今はABCくらいしか無いんだよ。
昭和の世なら、濃い生きざまの女性アイドルやシンガーに行くはずだったひとたちなんだよ。AKBでは屁の突っ張りにもならんわけだよ。そういう意味ではいま現在、強めの女子が気持ちよく唄えるABCって、もしかしたら中森明菜以来の存在なのかもしれん。
――(笑)。
市川:ぎゃははは。だからyasuが強めの女子曲のカヴァーをシリーズ継続しているのは、とても正しいと思う。しかも選曲の基準は、おそらく
もっと言えば、カヴァーに限らずオリジナル曲も含め、ABC自体がyasuが唄って気持ち良いって思える一式、なわけですよ。とどのつまりが、yasuの感覚やメンタリティーが「強めのお姉さん」と同一ということですなぁ(笑)。
――ファンタジーが好きなマンガ好き少年の一方で!
市川:基本的にファンタジーが好きなマンガ好き少年って元々、少女感を兼ね備えてるよね。昔からなぜか。
――昔のマンガ好き男子は少女漫画も読むのが普通でしたしね。そういう「マッチョではない感性」みたいなのはあるかもしれませんね。
市川:その彼ら独自の<マッチョではない感性>の原点には、まだ触れたことのない「少女」に対する絶対的な憧れと妄想があってさ。それが当時のアニメやゲームの根底に流れていたりしたわけじゃん。そういうところだと思うんだよ。
yasuは昔からマンガ好きで、色んなものを見てきているから、彼が創造する世界では少女がいろんな意味で強い女になっていくわけですよ。その価値観がすべて。
yasuに限らず、昭和の演歌にせよフォークにせよ歌謡曲にせよニューミュージックにせよ、一人称が女の歌を作ったら必ず同じパターンに落ち着くよね、<あくまでも男が想像する悲惨な女の人生>みたいな。