――ABCの『少女の祈り』はまさにそんな感じですね。

市川:男って女のことをわかったつもりで、「仮想・女」として作品を創ろうとするとやたらクリエィティビティーが増すようで――それが事実に即しているか、正しいか正しくないかは別として、リビドーがたぎるっていうか(苦笑)。

うーん、カヴァーアルバムの選曲も含めて、まさにyasuは己れの資質に忠実な正しい道を歩んでるんだよ。そう考えるとABCのことがわかってきたような気がするぞ――勝手に言ってるだけだけど。

――今日はそういう趣旨の企画ですから!

市川:たぶんABC名物・エロエロソングも、そうしたyasuらしい方法論が活きてるよね。卑猥な歌詞ではあるのだけど、なぜか女子サイドからのスケベソングだから。
自分のちんちんを股に挟んで隠し、「いやーん」と女児を演じるクレヨンしんちゃんみたいなものなんだけども、まさに同一線上にありますなぁ(愉笑)。

なんかそういうワンクッションを挟んじゃう、永遠のマンガ好き少年ならではのこざかしさというかファンタジー体質というか、素敵な男です。くくくく。

――ははは。

市川:マンガにせよゲームにせよアイドルにせよ、ヲタクって基本的にものすごく几帳面でマメでしょ。そういう意味では、沢山リリースして沢山全国ツアーして沢山企画も考えて、的なABCのフル稼働っぷりもyasuの資質そのものだしねぇ。
こんなによく働いてしかもそこそこの成果をあげているアーティスト、いまどきいないよ?

――地方のホールも細かく回りますからね。全国のファンから「この曲がきっかけで結婚しました!」みたいな声が届く…みたいな。

市川:それはどうかと思うけども(失笑)。
あとはyasuのヴォーカルスタイルかなあ。私はかねがね、彼の高音がのびやかなヴォーカルにヤマハの《ポプコン》的な匂いを感じていて。なんか王道、みたいなさ。

――若い人には「ポプコン(60年代末から80年代にヤマハが主催していた、フォーク・ポップス・ロックの音楽コンテスト。クリスタルキング、チャゲ&飛鳥、世良公則&ツイストなどを輩出)」なんて通じませんよ!

市川:(無視)かつて日本のインディーズ・ロックやV系の連中が影響を受けたヴォーカルって、デヴィッド・ボウイやブライアン・フェリー、デヴィッド・シルヴィアンなどなど、英国式の腹から声を出さず喉で唄う低音スタイルなわけ。そもそも彼らは王道ロックのような高音が出ないから、ああした唄い方を編み出した。そして日本のV系も高音が出ないから、低音でおどろおどろしく唄うのが常になった。たとえばBUCK-TICKに代表されるようにね。ゴスっぽくなる必然性があったわけだ。

ところがyasuにはわざわざ低音で唄う必要性がない。昔ながらのポプコン的な王道ロックの唄い方ができちゃうんだからさ。あのメロディアスで爽やかな高音ヴォーカルに、いかにもV系的な世界観は合わないでしょ? NO・ゴスですよ。
くくくく。

――ゴスの代わりの世界観がRPG的なファンタジーということに。

市川:「ゴスの代わりがファンタジー」ってすごいな。

――……夢があるんだかないんだか、よくわからなくなってきましたね。

市川:yasuの内面に闇はないんだよ。ないからABCができるんだよ。

――その一方で、日本の情勢を反映するような曲も唄ったりするわけじゃないですか。たとえば「震災」もyasuさんの大きなテーマだと思うのですよ。社会の流れには敏感だと思うんですよね。

市川:逆に個人としての闇がないから、そういう社会的な闇に対して積極的になれるんじゃないの? そういう意味ではやはり、エンターテイナーとしてはもってこいの資質の人材なんじゃないでしょうか。だからねえ、暗黒の無い人間がV系的なことをやろうとしたらどうなるかって優秀な見本が、ABCなんだよ。素晴らしいよ。だからyasuにはこのまま闇ナシでいってほしいもんね、どこまでも。