漫画というメディアは心情描写にすぐれる反面、アニメや実写のように動き・音などを直接表現することができない。はっきり勝敗の分かれるバトル漫画ならまだしも、芸術や料理ジャンルになると“いかに主人公の腕前を読者へ伝えるか?”が課題になってくる。

  そこで重要になってくるのが作中キャラクターの反応、つまりリアクション(reaction)だ。見た人、聴いた人、食べた人がどのように反応するかで間接的に「おお、この動きや味はとても素晴らしいに違いない」と読者は想像することができる。

  今回は少年漫画の中からリアクション表現が飛び抜けたものを3タイトル紹介したい。中級から超上級まで……みなさんはいくつご存じだろうか?


■リアクション中級編 『真・中華一番!』(作:小川悦司)

※料理を食べた人のリアクションです※

・使った食材のイメージが脳裏に浮かぶ
・手や顔から血管が浮き出て「ギュルルル」と音を立てながら血が全身を駆け巡る
・美味さのあまり人間ではありえない量のヨダレを垂らす
・審査員が恍惚の表情で全身から汗や鼻水を吹き出す
・美形キャラの作画が崩壊する
・美女が裸になる(心象イメージで)
・ビタミン不足で瀕死だった人が野菜チャーハンにより一瞬で心身を浄化される
・気のエネルギーを込めた料理で人格が支配される



  舞台は19世紀中国。四川省に生まれた天才少年料理人・マオが、その料理の腕を振るい人々を幸せに導いていくストーリーだ。単行本は全12巻、テレビアニメ化もされている。

  行き倒れの人間を救助したり、圧政を敷く為政者から街を救ったり、料理という最大最強の武器をフルに使ってマオ少年が大活躍する。リアクションは中華料理の薬膳効果を意識してか、美味しさだけでなく人体に影響を与える描写が多い。マオや仲間が料理を良い方向に作れば食べた人は元気に、悪人が意図して料理すれば人格破壊のツールに……この対比がよく考えられていて、単に美味しさを競うだけの料理漫画よりもスリリングだ。

  今回はリアクション漫画として取り上げたが、ストーリー構成から調理法にいたるまでハッタリが効いているのも特長。『水滸伝』・『三国志』といった中国ならではのモチーフをうまく設定に取り入れつつ、悪の料理組織「裏料理界」と熾烈な戦いを繰り広げるマオたちの勇姿は、料理漫画というより王道ロールプレイングゲームのよう。すさまじい刀工(包丁の腕前)で牛一頭を瞬時に解体したり、川の水面を燃やしてその熱で料理したり、とにかく何事も徹底してダイナミックだ。何回読み返してもこの作品は本当にワクワクさせられる華をもっている。

  なおマオ君の修業時代を描いた前作『中華一番!』も全5巻で完結済み。本編が楽しいのはもちろんだが、同時収録された短編読み切り『KING OF TOWER』も秀逸である。手ごろなボリュームなのでぜひ通して読んでみてほしい。


■リアクション上級編 『ブリザードアクセル』(作・鈴木央)

※スケート演技を見ている人のリアクションです※

・演じている題目の景色や人物が観客の脳に直接イメージされる
・赤ん坊が泣き出し、子供がお漏らしする
・音響トラブルがあっても客の耳に音楽が聞こえてくる
・顔つきが濃く(劇画っぽく)なる
・目を見開きマユゲが数メートル伸びて隣にいる人間に巻き付く
・噴水状に鼻水が吹き出して迷惑なので隣にいる人間が傘をさす
・鳥になって会場外に出て富士山を横切り卵を産んで子育てする





  家族との折り合いが悪く、親からまったく注目されず育った中学生・北里吹雪が主人公。目立ちたいあまり銀髪に染めたりケンカに明け暮れたりするうち、フィギュアスケートと運命の出会いを果たし、その並外れた才能を開花させていく……。

  少年誌の連載作としては珍しくフィギュアスケートを題材にした漫画だ。主人公の吹雪はフィギュアを「フギャー」と呼ぶようなド素人だが、天性の運動神経にくわえて“他人に注目されると異常な力を発揮する”というハッキリした特徴をもっている。素人なのに四回転半ジャンプを見せつけ、大舞台でも緊張するどころか実力以上のパワーを出せる彼は、まさに華々しいフィギュアスケートの申し子と言えるだろう。

  名門スケートクラブに入るための試験をはじめ、数々の国内大会を経て、やがて吹雪の活躍はアメリカまで展開。トレーニングや試合、ライバルとの激突、さらにペアを組むことになった少女との恋愛まで非常に構成バランスが良い。ジャンプの基礎や採点方法まで本編で詳しくフォローされているためフィギュアの知識がなくてもまったく読むのに支障ない。

  いかんせん読者にさほど馴染みのないジャンルなので、滑りのすばらしさを表現するのに一種ギャグ的ともいえる過剰なリアクションを登場させている。最初は口をあんぐり開けたり目が飛び出したりする程度だったのが次第にエスカレート。中盤からは人間を軽くやめてしまうリアクションが次々に登場して、読者を爆笑させてくれる(ラストの見せ場はシリアスなのでご安心を)。

  リアクションが気になって肝心の滑りに目がいきにくいという本末転倒な欠点も若干あるが、全体として見るとハイレベル&独創的なスポーツ漫画に仕上がっている。フィギュアに少しでも興味のある人には断然オススメだ。単行本は全11巻。