熊吉役の塚地武雅
戊辰戦争後、故郷・薩摩で暮らしていた西郷隆盛(鈴木亮平)は、明治新政府の要請を受け、東京へとやって来た。このとき、隆盛と共に上京したのが、西郷家の使用人・熊吉だ。隆盛の幼少期から仕える熊吉を第1回から演じてきたのは、人気お笑いコンビ、ドランクドラゴンの塚地武雅。1年にわたって間近に見てきた西郷家の印象などを語ってくれた。
-これまで西郷家を離れたことのなかった熊吉が、ついに東京に出てきました。演じてみた感想は?
とにかく、楽しくて仕方がなかったです。今まで鹿児島や奄美大島のロケがありましたが、どこにも行ったことがなかったので…。だから、別の土地に行くことになって、僕自身ものすごくウキウキしました(笑)。しかも、明治編に入って服装もメークもかつらも新しくなる。楽しくて、楽しくて…。街中を馬車が走っている様子を見たら、お芝居しようと思わなくても勝手に「うわっ!」となりました(笑)。
-熊吉は第1回から登場している数少ない人物ですね。
今いるキャストで第1回から出ているのは、僕を含めてほんの数人。でも、一番長くいる割には、何も変わっていなかったんです(笑)。他のみんなは衣装が良くなったり、メークも立派な雰囲気に変わったりしているのに、僕は明治編に入るまでボロボロの衣装一着で、メークも一切変わらない。だから、「年齢不詳」、「あいつは不老不死なのか」、「妖精なのか」といろいろ話題になっていたようです(笑)。
-そんな熊吉にとっての西郷家とは?
隆盛や他の兄弟たちが外に出ていったり、新しくお嫁さんが嫁いできたりする中、熊吉は外のことは全く知りません。ただ、その分、江戸や京でいろいろなお役目を経て戻ってくる隆盛を、無条件に迎え入れることができる。いくら出世しても、ここに帰ってきたときは、妹に怒られたり、おかしなことを言う僕に突っ込んだりする関係は、子どもの頃から何も変わりませんから。僕たちが田舎に帰って昔の友達に会うように、隆盛にとって西郷家はリセットできる場所。だから、僕自身は「何も変わらずにありたい」という気持ちでやっていました。恐らく、家族を演じたみんながそうだったのではないでしょうか。
-そのために、お芝居で心掛けたことは?
台本を読むと、隆盛は大きな事件に巻き込まれて疲れて帰ってくる、みたいなことが分かりますが、そういう前後の事情は意識しないようにしていました。外でいろいろなことがあっても、西郷家は西郷家。熊吉にとっては「若さぁ(=隆盛)が帰ってきた」ということでしかない。隆盛が政治の話をしても、こっちは「誰々のところのいもがおいしくて…」みたいな話をするだけ。それが、隆盛にとって安らぎになるのではないかと。
-熊吉とは対照的に、どんどん変わっていく西郷隆盛=鈴木亮平さんをどんなふうにご覧になっていますか。
西郷隆盛の成長に合わせて、鈴木亮平くん自体が変わっていくんです。時代に合わせて声も次第に低く、穏やかな感じに変わっている。明治編に入ってからは短髪になりましたが、それに加えて、年齢が上がるにつれて髪をすいてみたり、縁をそってみたり…。徹底して西郷隆盛に見えるように作っている。その変化の仕方はすごいなと。その対比で、僕が変わらずにいればいるほど、隆盛の変わり様がより明確に伝わるのかなと思っています。
-大河ドラマ出演は「平清盛」(12)に次いで2度目とのことですが、違いはありますか。
「平清盛」は途中3カ月ぐらいの出演でしたが、今回は1年を通しての出演。その間、スタッフや演者さんのこだわりを目にして、実在の人物を演じることの責任を痛感しました。実在の人物の場合、子孫の方や、縁のある地域に暮らす方、歴史好きの方などがいて、それぞれが持つその人物に対するイメージがある。演じる上では、それを完全に裏切るわけにもいきません。今回、熊吉の子孫の方から「熊吉はこんな人物で、演じてくれることを喜んでいます」と書かれた長文のメールをいただいたんです。そういう思いを知ると、「やる以上は、子孫の方にも喜んでもらえるように演じなければ」という気持ちも湧いてきましたから。
-ところで、西郷菊次郎役の城桧吏くんが「大人のキャストで一番話したのは熊吉さん」と話していましたが…。
そうかもしれません(笑)。子役の子は、なぜか僕に懐いてくるんです。桧吏くんや(隆盛の次男の)寅太郎(林田悠作)とか、みんなはじけた子たちだったんですけど、“死んだふり”をするんですよ。で、僕が「寅太郎さあ、寅太郎さあ」と声を掛けると「何?」、そこへ「寝てただけかい!」と突っ込む(笑)。みんな緊張して現場に来ているせいか、そういうやりとりが気持ちよかったらしく、全員がそれをやるようになって…。しまいには亮平くんや(黒木)華ちゃん(西郷糸役)までやるようになりました(笑)。
-西郷家の温かい雰囲気が伝わってきます。
ただ、桧吏くんはそうやって楽しそうにしていましたけど、撮影が終わった時、目を潤ませながらあいさつしているのを見たら、「この子にもプレッシャーがあったんだな」と思って、いとおしくなりました。それを少しでもほぐせたなら、お笑い芸人としては本望です(笑)。
-ドラマは終盤を迎えますが、明治編に向けた意気込みを。
先日、薩摩川内市で行われたトークショーに行ったら、「熊吉」と書いたうちわを持っている人があちこちにいたんです。「熊吉に癒やされる」、「熊吉がヒロインの1人」などと言ってくださる視聴者も多いらしく、本当にうれしい限りです。そういう意味では、明治編は出番が増えるので、楽しみにしていただければ。熊吉のことを好いてくれるお房という女性も登場して、ちょっとしたラブロマンス(?)みたいなものも描かれるので…(笑)。大きな事件もたくさん起こりますが、隆盛と一緒にいる熊吉を見て、ホッコリしてもらえたら理想的です。
(取材・文/井上健一)
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