伊藤博文役の浜野謙太

 岩倉使節団の一員として欧米視察に出ていた大久保利通(瑛太)が帰国。朝鮮との外交問題を巡り、西郷隆盛(鈴木亮平)率いる留守政府組との対立が表面化する。そんな状況下、政府内に居場所を失った大久保に接近したのが元長州藩士たち。その中には、後の初代内閣総理大臣・伊藤博文の姿も…。演じるのは、ミュージシャンとして活動する一方、連続テレビ小説「まんぷく」(18)などで個性派俳優としても存在感を発揮する浜野謙太。初めての大河ドラマの現場で感じたこと、役に懸ける意気込みなどを聞いた。

-大河ドラマ初出演とのことですが、オファーを受けたときのお気持ちは?

 日本の初代総理大臣を務めた方なので、最初は「荷が重いな…」と思いました。でも、プロデューサーさんとディレクターさんからお話しを伺ったとき、「似ている」と言われたんです。若い頃の伊藤博文の写真を見ると、確かに僕に似ている。おかげで「これならできる!」と自信がつきました(笑)。そこで、視聴者の方にも「似ている」と思わせたかったので、初登場の場面ではお札になったあの顔を意識してみました。オンエアを見た玉山(鉄二/木戸孝允役)さんからは「なぜ、あんな変な顔をしてたの?」と言われましたが(笑)。

-周囲の反響などは?

 僕の母が歴史好きなんです。中でも大好きなのが坂本龍馬。そこで、喜んでもらえると思って、「西郷どん」の出演が決まったことを伝えたんです。でも、「伊藤博文だよ」と言った途端、「私、あの人嫌いなの!」と(笑)。

-演じる上で、伊藤をどんな人物と捉えていますか。

 監督が「伊藤はコンピューターオタクのような人間」とおっしゃっていたんです。そういう役はこれまで何度か演じたことがあったので、いけそうだなと。ただ、剛毅な会話を繰り広げる維新の志士たちの中で、そういう雰囲気を出すのはなかなか難しいものがありました(笑)。その一方で、他人の顔色をうかがうのが上手なタイプだと思ったので、明治編に入ってからは、さまざまな思惑が絡み合う政府内で、周囲の様子を巧みに伺う雰囲気を出そうと心掛けています。一つのテーブルを囲んで「みんな、こんなことを考えているんだろうな…」と想像しながら演じるのが楽しくて…(笑)。

-初登場となった第32回「薩長同盟」で、伊藤は薩長同盟の締結に大きな役割を果たしました。演じてみた感想は?

 実は僕、薩長同盟の場面が撮影初日だったんです。しかも、そのリハーサルに参加することができなくて…。後で話を聞いたら、「薩長同盟が結ばれるのは視聴者も分かっているから、どうやったら盛り上げることができるか、ものすごく考えた」というんです。それを知らずに現場入りしたんですが、みんなのすごい気迫に胸が詰まり、ポロポロと涙が出てきました。自分のせりふを間違えないか緊張しましたが、あの現場にいられたことには感動したし、楽しかったです。ものすごく充実した日でした。

-その場面から入ったことで、その後、やりやすくなったようなことは?

 確かに、あれでやりやすくなりました。ただ、明治編に入ってからは、伊藤も変わってきています。あのときは、西郷さん寄りの真っすぐなキャラクターという印象でしたが、明治に入ると、大久保さんと一緒にいることが多くなり、すごみや怖さみたいなものが伝染してきます。やっぱり、ひょうひょうとしているように見えても、総理大臣になったほどの政治家。怖い部分もあるはずです。これからは、そんな部分も出していけたらと思っています。

-伊藤と大久保の関係も見どころですね。

 そうですね。実は、伊藤博文の話をまとめた本があるのですが、そこに大久保さんのことはかなり詳しく書いてあるのに、西郷さんのことは半ページぐらいなんです。しかも「すごいやつだったけど、政治の才能はなかった」みたいに断じていて…。そんなところからも、2人との距離感が伝わってきます。

-長州出身者同士ということで、木戸孝允役の玉山鉄二さんと一緒の場面も多いと思いますが、共演した感想は?

 玉山さんは、いろいろな人に気軽に話しかけたりして、場を和ませることがとても上手です。僕には音楽の話をしてくれるなど、話題も豊富で。明治政府はかなりカチッとした雰囲気ですが、そんなときも上手に僕をいじってくれるんです。例えば、僕が体の一部しか映らないような場面があったりすると「この場面の伊藤は、眠っている設定?」「違いますよ!」という感じで(笑)。そういうのは、僕としてもうれしいです。弟子にしてもらいたいぐらいです(笑)。

-現在、連続テレビ小説「まんぷく」にも出演されていますが、雰囲気の違いは感じますか。

 全く違います。朝ドラの現場は「いかに演者をリラックスさせるか」という雰囲気にあふれていますが、大河の現場は緊張感たっぷり。その分、野心的で貪欲な政治家らしい気持ちも湧いてきます(笑)。同じNHKでも、雰囲気が全く異なるので面白いです。

-明治政府は顔ぶれもかなり個性的です。どんな気持ちで伊藤を演じていますか。

 薩長土肥のうち、薩長がかなり有利な立場にあります。そんな中で繰り広げられる、真っすぐに突っ走る西郷さんと巧みな策略で政治を動かそうとする大久保さんの友情のドラマや、木戸さん、大隈重信(尾上寛之)たちの緊迫したやり取り…。明治政府内もドラマが盛りだくさんですが、それぞれが思惑を秘めた中で、僕はいかにひょうひょうとしていられるかが勝負。虎視眈々(たんたん)と機会をうかがい、自分の力を伸ばしていく伊藤をうまく表現できればと思っています。

(取材・文/井上健一)