会見の模様 (c)FESJ/2018/Mariko Tagashira 会見の模様 (c)FESJ/2018/Mariko Tagashira

1975年に南米ベネズエラで生まれた「エル・システマ」。貧困と犯罪が蔓延する社会に生きる子供たちのためにユース・オーケストラを作り、音楽教育が社会変革と一体になりうるという新しい道を示した画期的な音楽教育システムだ。12月1日(土)に行なわれる「エル・システマ・フェスティバル ガラコンサート2018」は、駐日ベネズエラ・ボリバル共和国大使館、2008年よりエル・システマの活動を継続的に紹介してきた東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)と、東日本大地震で被災した子供たちに寄り添う形で2012年に始まった「一般社団法人エル・システマジャパン」が主催する、子供たちが主役のコンサート。公演前日、出演者らによる記者会見が開かれた。

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コンサート前半は、エル・システマジャパンと連携する、福島県相馬市、岩手県大槌町、長野県駒ケ根市の3つの子供オーケストラの合同演奏。指揮者としてベネズエラからエンルイス・モンテス・オリバーが初来日した。エル・システマの象徴的な存在である、出身の世界的指揮者グスターボ・ドゥダメルも「次代の才能」と太鼓判を押す1996年生まれの21歳。今回がベネズエラ国外での指揮デビューとなる。すでに1週間前に来日し、相馬と大槌で子供たちの指導に当たるなど各地をまわった。「素晴らしい経験。エル・システマの創始者であるホセ・アントニオ・アブレウ博士が大切にしていた“音楽は統合である”というメッセージが、世界共通のものと確認できた」(オリバー)

音楽を通して、人はみな社会の一員であることを自覚させ、だからこそひとりひとりの成長・前進に意味があることを示す。「相馬や大槌で見たのも、まさにそのこと。エル・システマは社会のために作られた。より良い市民を育てるためのシステムであり、それがエル・システマの秘密。人々のための音楽なのです」(同)

オーケストラ活動から始まったエル・システマのモットーは「奏でよ、(困難と)闘え」。最近は合唱も重要な活動のひとつとなり、モットーにも一語が加わった。「奏でよ、歌え、闘え」。今回のコンサートも、後半は「東京ホワイトハンドコーラス」と、ベネズエラから来日した「ララ・ソモス」による歌のプログラムだ。「ホワイトハンドコーラス」は、聴覚障害や自閉症、発声に困難のある子供たちのための合唱団。白い手袋で手話によるコーラスを行なうことからこの名がある。日本の「東京ホワイトハンドコーラス」は昨年結成、「ララ・ソモス」の主なメンバーもベネズエラの「ホワイトハンドコーラス」に属している。指導者で、駐日ベネズエラ大使夫人でもある声楽家のコロンえりかは言う。「子供たちは昨年共演したララ・ソモスに夢中で、今年はぜひベネズエラの曲に取り組みたいと必死に練習してきた。地球の反対側に遠く離れていても、思いがつながれば一緒にできる。互いの励ましや友情、美への思い。私たち人間が目指す社会が、実はこんなふうに簡単に作れるのだと感じてもらえるはず」

公演は12月1日(土)午後3時より東京・池袋の東京芸術劇場で。

取材・文:宮本明