沈黙を保っていた西郷隆盛(鈴木亮平)が、ついに不平士族たちを率いて鹿児島を出立。いよいよ次回、日本史上最後の内戦・西南戦争が幕を開ける。この戦いで政府軍を率いて西郷軍を迎え撃つのが、かつて西郷の下で徴兵制の実現を目指した陸軍卿・山県有朋。演じる村上新悟が、役作りの裏話、西郷に対する山県の思いなどを語ってくれた。
-山県有朋役に決まったときのお気持ちは?
ありがたいお話しでしたが、「難しい役どころがきたな…」というのが素直な気持ちです。というのも、総理大臣を2度務め、「国軍の父」とも呼ばれて歴史の教科書に載る一方で、「軍国主義の権化」という批判的な捉え方もある人物。だから、どんなふうにアプローチしたらいいのか、最初は悩みました。
-そんな山県の役作りはどのように?
山県有朋は83歳まで生きていますが、僕が演じるのは西南戦争直後の40歳頃まで。つまり、人生の半分ぐらいなんです。良くも悪くも、歴史に残ることをしたのはその後。だから、それまでどんなふうに生きてきたのか、詳しいことは分かりませんでした。山県について書かれた本もかなり読みましたが、40歳までの人生ついては、3分の1書いてあればいい方で、あとは西南戦争以後のことが大半。山口県の方に話を聞いても、若い頃に何をやっていたのかは、あまり知られていないらしく…。
-となると、役作りも大変ですね。
ヒントになったのは、下級武士の家に生まれ、家庭環境にも恵まれず、愛情や家庭的なものに飢えて育ったということ。そうした細かい逸話の中から、劣等感が生まれ、反骨精神が育まれていったのだろうと、自分の中で人物像を作り上げていきました。
-演じる上で心掛けていることは?
初登場は第41回でしたが、その前から放送されている本編を見て、「このときは既に西郷さんに会っている」、「この頃は奇兵隊にいた」みたいな感じで、自分なりのサブストーリーを作っていました。だから、今出演している場面で、例えしゃべっていなくても、それまでの人生を踏まえて、「こんなことを考えているんだろうな」と考えながら演じています。
-初登場となった第41回では、かつての仲間に勝手に大金を貸して利益を得る汚職事件「山城屋事件」を起こし、西郷に政府を追い出されましたが…。
初登場でいきなりどんちゃん騒ぎをするので、「何だこいつ?」と思われないか心配でした(笑)。とはいえ、「『なぜこんなやつらに政府を任せてしまったのか』と西郷に思わせたいので、思い切り騒いでください」と演出からも指示があり、思い切ってやらせてもらいました。ただ、山県は非常に用心深くて疑心が強く、慎重な性格。奇兵隊にいた頃、みんながフグを食べている中、毒に当たることを恐れて1人だけタイを食べたという逸話もあるぐらい。だから、あんな汚職事件を起こした理由が分かりませんでした。おそらく、明治維新後の急激な時代の流れに飲まれていたのでは…と想像しましたが。また、史実ではその後、西郷さんに助けられています。
-そんな西郷に対する山県の思いは?
西郷さんのことは心から尊敬しています。西郷さんは太陽のような人。懐が深くて物腰も柔らかいので、周りに人が集まってくる。それに対して山県は「有朋」という名前に「月」の字が三つ入っているように、月のような人。「有朋」の「朋」は「仲間」の意味ですが、寂しい少年時代を過ごしたので、仲間を求める思いもそこに込められていたのではないかと。太陽がなければ月は輝きません。西郷さんは歩む道を照らしてくれる存在だったのではないかと。そんなところも、西郷さんのことを尊敬するようになった理由の一つではないでしょうか。
-その後、大久保利通(瑛太)が実権を握ると、山県は再び政府の中枢で働くようになりました。
山県はどちらかといえば、大久保さん寄りの考えを持っている人です。日本という国をどうしていくかという点では、考え方も似ている。奇兵隊時代にたくさんの仲間を失い、彼らのため、そして戊辰戦争での多くの犠牲者のためにも、この国を西欧列強に負けない強い国にしていかなければいけないという思いを持っていた。ただ、西郷さんを尊敬する気持ちも変わってはいません。そういう意味では、西郷さんと大久保さんの間で揺れ動いていたに違いありません。
-最終的に、山県は西南戦争で軍隊を率いて、西郷軍の討伐に向かうことになります。
劇中でも語られていたように、山県は西郷さんと一緒に徴兵制の実現を目指していました。それは、これからの日本に必要だと考えていたからこそ。だから、反乱士族たちに負けるようでは意味がない。そういう意味で、西南戦争は山県にとって絶対に負けられない戦いだった。西郷さんを討ちたくはないが、徴兵制で組織した国軍の強さを見せるには絶好の機会。そういう複雑な心境だったでしょうね。最終回にも、そんな西郷さんへの思いを表現する場面があります。
-西南戦争は、山県にとってどんなものだったのでしょうか。
劇中ではそこまで描かれませんが、西南戦争以後の山県は、西郷さんの思いも背負い、豊かな国にするため、日本を近代国家に作り上げようとしたのではないかと。事務処理能力に優れていたという話もありますが、彼の歩みを振り返ると、奇兵隊では高杉晋作の下で働き、西郷さんにかわいがられ、木戸孝允にも一目置かれ、大久保さんにも重用された…。そんなふうに幕末・維新期の英雄たちと関わり、83歳まで生きた山県有朋は、やはりあの時代に必要な人だったのではないでしょうか。
(取材・文/井上健一)