段取りっぽいテイクは面白くなかった
――あの前半のゾンビ映画部分の37分ワンカットは6テイク目でようやくOKになったようですけど、それまでのテイクにはどんなトラブルやNGがあったんですか?
6テイク中、最後まで行けたのは4テイクやったと思います。
1回は「ゾンビ・メイクが間に合いません」ということでカメラを止めたし、カメラマンがコケたときに誤ってRECボタンを押しちゃってカメラが止まったこともありました。
で、5テイク目は完璧やったんです。何の問題もなく、ソツなく、滞りなく終わったんですよ。でも、何の問題もなさ過ぎたんです。
――どういうことですか?(笑)
すごく段取りっぽかったんです。台本通りに行き過ぎていて面白くなかったんですね。
それこそ、“カメ止め”はアクシデントやトラブルに見舞われた撮影スタッフが辻褄を合わせるためにドタバタして、何とかその障害を乗り越えていく映画じゃないですか。
なのに、僕らがソツなく、問題なく撮っていいのか? それじゃあ、つまんないなっていう想いもあって。
それで「もう1回だけやらせてくれ」ってやったのが6テイク目だったんですけど、ここでは血がピシャっとかかるのもガチのトラブルだし、ゾンビのメイクに時間がかかり過ぎて、出てくるのが15秒ぐらい遅れたのを襲われる役者がアドリブで繋いでいたりしていて。
そういったトラブルによって全体のライブ感も増したし、二度と撮れない長回しの画になったので、6テイク目を採用したんです。
空間をダイナミックに使って、どんどん移動する、走り回る37分にしたかった
――あのロケ地もこの映画にピッタリでした。
そうですね。制作部がロケ地を幾つか探してきてくれたんですけど、あそこにいちばん最初に行って、すぐに「ここやろう」って決めました。
――あそこは何がよかったんですか?
いろいろな要素があるんですけど、あの浄水場の跡地は雰囲気がすごくよかったんです。
瓦礫が自然に割れてるし、汚れてるし、全体的に年期も感じられて、日本軍が昔使っていた基地という設定にピッタリのいかがわしい機械まであったから、美術は何も施してないんです。
しかも、外には怪しい小屋や地下通路もあって、それが走って巡れる距離にあったのも理想的でした。
空間をダイナミックに使って、どんどん移動する、走り回る37分にしたかったんです。
そういう意味でも、走り回り甲斐のある素晴らしい建物とロケーションでした。
――先ほど言われたように、建物の中の人物を撮っている間に外に出たキャストに特殊メイクをしたり、血のりをつけたり、コンタクトをハメてゾンビにしたわけですよね。
そうです。そこは時間と距離を何回もシミュレーションして、リハーサルを繰り返してやりましたね
いちばん上手くいかなかったのは、劇中の撮影スタッフがクライマックスで作る“あれ”
――長回しの撮影でいちばん上手くいかなかったこと、何度も失敗したことは?
いちばん上手くいかなかったのは、劇中の撮影スタッフがクライマックスで作る“あれ”ですね。
当日まで1回も成功してなかったので、撮影の本番もみんな大丈夫かな? という不安を抱えながら走っていました。
――後半のバックステージのパートはその顛末を全部1回劇用に撮り直していると思うんですけど、前半との擦り合わせは大変じゃなかったですか?
実は、前半の1カットのパートと後半の舞台裏ではセリフが微妙に違うし、血のつき方も全然違うんですけど、そこまで気にしなかったです(笑)。
もちろん、そういうところまで完璧にできた方がベストですけど、その繋がりよりも、役者の気持ちやテンションが繋がっていない方が問題なので、そっちを優先させました。
そのふたつのパートの外側に僕らがいて、それが分かる構造になっているのも大きかったですね。
エンドロールでそれを見せるので、微妙に違うところを残しておいても逆に面白いかなと思ったんです。
“ホラー映画あるある”みたいなネタもいっぱい入れてますね。
――『スクリーム』(96/監督:ウェス・クレイヴン)のような、“ホラー映画あるある”みたいなネタもいっぱい入れてますね。
そうですね。タンクトップにホットパンツはアメリカのファイナル・ガール(最後まで生き残るホラー映画のヒロインの総称)の伝統的なスタイルですし、おっぱいも大きい子が多いんですよ。
だから、ヒロインの逢花を演じた(秋山)ゆずきちゃんにもおっぱいのかさ増しをしてもらいました(笑)。
――あと、ゾンビに襲われる撮影クルーがそっちに行っちゃいけない、そっちに行ったら危ないでしょ!って思う方に逃げるお約束もありました(笑)。
はい(笑)。ほかにも、ゾンビより怖いのは本当は人間だ! とか、自分の大切な人が感染しちゃうとか、“ゾンビ映画あるある”みたいなものは入れようとは思ってましたね。
最後まで走り切るそのカッコいい姿を撮れたらいいなと思っていた
――“撮影現場あるある”もいっぱい入ってました(笑)。
それは自分が普段やっていることですから(笑)。
でも、舞台裏のパートで、監督の日暮(濱津隆之)がワガママなアイドル女優=逢花に「本物をくれよ!」と言ってキレるところはちょっと不安だったんです。
「アイツはいつも調子に乗っているから俺はキレたんだ」という説明がないから、彼が急にキレたように見えないか、キレるぐらいまでの感情になっているのが伝わるのか? 心配だったんですよ。
でも、台本の段階では普通のセリフとして書いていた「よろしくで~す」というセリフを、彼女が肩とかをポンと叩きながら、あの口調で2、3回繰り返したら日暮はあそこまで行けると思ったんです。そういう子っているんですよ。
――ああ、分かります(笑)。
無茶苦茶なことを言うてくるプロデューサーもいますしね(笑)。
――逢花が反撃に転じられるように、スタッフが小屋の外にオノを置きに行って、偶然転がっていたように見せるあの繋がりを無視した行為も、低予算映画やホラー映画の撮影現場ではありがちだなと思いました(笑)。
あ~はいはい(笑)。逆に、普通の映画監督だったら、あのB級のゾンビ映画は撮り切れてなかったですね。
実は最初の頃のプロットでは、映画監督が「俺は30分ワンカットの映画を撮りたいんだ」と言って撮り始める話にしていたんです。
でも、僕もいろいろな経験をするうちに、それはすごく青かったなと思うようになって。
人生ってうまくいかない、思い通りにいかないことがいろいろあるじゃないですか。でも、「無理です」と言わずに最後まで走り切らなきゃいけない。それが、カッコいい!って思えるようになってきたんです。
それこそ、映画監督は「いや、こんなクオリティを落としたものは放送できない」と言ってやめちゃうかもしれないけど、テレビのディレクターたちは納品することが最優先事項だから、いい意味で妥協ができる。
そんな想いがあったので、撮影の舞台裏を見せるパートでは最大限努力して、手持ちのカメラを回しっ放しにして、最後まで走り切るそのカッコいい姿を撮れたらいいなと思っていたんです。
――メイキングも拝見したんですけど、上田監督もGo Pro(高画質の小型アクションカメラ)を頭につけて撮影に参加したこのメイキングは、先ほど言われたように、ゾンビ映画のバックステージのさらに裏を見せる多重構造になっているところが面白いですよね。
“カメ止め”にはメイキング班を入れてなくて、すでに関係性のできていた、身体の空いているキャストやスタッフがハンディカムを回しているんです。
だから、外部の人たちが撮る普通のメイキングと違って、被写体になる役者やスタッフとの距離が近いと思います。
それに、配役が決まっていない状態からのメイキングなんてなかなかないし、居酒屋で喧嘩をして泣いたりするところなどはなかなか見られない光景だと思うので、そこは1本のドキュメンタリー作品を作るような気持ちで仕上げてもらいました。