リアルじゃない部分も‥‥?

『探偵の探偵』のリアルな部分ばかり紹介してきましたが、そこはフィクションですから、同業者から見てリアリティが感じられない描写もところどころありました。最後にそのあたりを少し語りましょう。

まず最大の謎は、主人公が配属された「対探偵課」の存在です。探偵を調べる探偵、悪徳探偵を叩くための探偵という触れ込みですが、現実にはちょっと考えにくいです。

そもそもこうした組織は調査業協会や監督省庁が率先して運営すべきです。自社にとって直接のメリットがないのに、民間の探偵社がこんなセクションを設置する理由は何なのでしょう? そして活動資金はどこから出ているのでしょうか? 主人公の上司にあたる須磨社長も謎が多いキャラクターのようなので、今後「対探偵課」設立の真の目的が明かされることを期待したいところです。

また、全体的に「探偵が有能に描かれ過ぎている」のも気になりました。主人公と上司、ライバルが優秀なのは問題ないのですが、その周辺のキャラクターまでエリート揃いなのはリアリティ的に微妙に思えます。唯一、主人公を罠にはめようとして失敗した悪徳探偵の小物ぶりは良かったです。

あるデータによれば、現場で活動する探偵調査員の平均キャリアは5年未満です。飲食業界も裸足で逃げ出すような超ブラック業界ですから、優秀な人材が極端に定着しにくいのです。

作中で主人公も通っていた探偵養成所(スマPIスクール)は綿密なカリキュラムを構築し、格闘技のトレーニング施設まで備えているようですが、現実にあれほど高度なスクールがあるなど聞いたことはありません。むしろ適当な指導で独立開業費用だけを巻きあげるような、いわゆるフランチャイズ詐欺に相当する話は飽きるほど耳にしましたが‥‥。

『探偵の探偵』に登場するキャラクターの多くは、小説・ドラマ上の演出として「有能っぽく描かれている」と考えるべきでしょう。早く現実の探偵業界がフィクションの水準まで追い付くことを願います。

ここまで『探偵の探偵』のファーストインプレッションを“元探偵から見たリアリティ”視点で述べてきましたが、全体としては非常にレベルの高い仕上がりだと感じています。設定が綿密に練られているのはもちろん、第1話から散りばめられた伏線らしきシーンもネットで盛んに考察されています。これから盛り上がっていく「対探偵課」vs「悪徳探偵」の知恵比べから、ますます目が離せなくなるでしょう。

どこで間違えたのか研究者の卵から探偵へクラスチェンジ後、足を洗った現在はライター稼業。いまだに尾行を気にして振り返る癖が抜けません。記事の守備範囲はネット、現実世界に関わらずちょっぴりアングラ系を好みます。