牛田智大 牛田智大 撮影:源 賀津己

12歳のデビューから7年。10代最後の年を迎えている牛田智大。3月21日(木・祝)に神奈川・横浜みなとみらいホール大ホールに横浜で、シューベルト《4つの即興曲》Op.90とショパン《24の前奏曲》Op.28を軸にしたリサイタルを開く。

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「シューベルトもショパンも、とても繊細で、シンプルで美しい形式・構成の中に深いドラマがあります。内省的な意味でドラマティックな作品をお楽しみいただければと思います」。シューベルトは、和声に対する感覚など演奏家の基礎的な部分が試される作曲家だという。「いわば試金石ですので、シューベルトを弾くための土台ができていないとなりません。もっと経験を積んで勉強してから、と考えていた時期もあったのですが、10代最後のこの時期に取り組む価値があると思いました」

一方のショパンの《24の前奏曲》も、ここ1年ぐらい取り組んできた、比較的新しいレパートリー。3月にはニューアルバム『ショパン:バラード第1番、24の前奏曲』もリリースされる。「ショパンも本当に難しい作曲家です。この《24の前奏曲》も、自分にとっては挑戦ですし、ピアノのエヴェレストに挑むような感覚がありました。技術的に難しい作品はほかにもたくさんありますが、この曲は音が多くないぶん、ごまかしがきかないというか、少ない音のひとつひとつに意味を見い出して、すべてに正しいニュアンスや音色をつけていかなければなりません。和声やアーティキュレーションの構成から、作品のスタイルに合った感覚をつかむことが大切だと思っています」

これからおそらくは40年、50年と続くキャリア。中心にしてゆきたいのがこのふたりの作曲家だと語った。今回はそこにラフマニノフの《絵画的練習曲》Op.39の第5曲と、リストの《超絶技巧練習曲》から第8番〈荒野の狩〉を組み合わせた。「ショパンとシューベルトだけだとスタイル的に偏ってしまうので、もう少しグランディオーソ(壮大に、堂々と)な要素を持った作品でバランスを取りたいと思いました。それによってお互いが引き立ちますし、リストがシューベルトから受けた大きな影響や、ラフマニノフがショパンから受け継いだ特徴的な部分など、その系譜を感じていただけることにもなると思います」

10代のうちに、バッハやモーツァルトなど、何人かの作曲家についてまとまった時間をかけて集中的に勉強したいという。「レパートリーを増やす時期と、1曲を掘り下げて勉強する時期をバランスよく取らなければなりませんし、レパートリーを増やすためにも引き出しが必要。そのストックを作らなければなりません」。新しいレパートリーに挑戦する3月のリサイタルも、その重要なステップのひとつに位置付けられるだろう。昨年は国際コンクール初挑戦となった浜松国際ピアノコンクールで日本人歴代最高位タイの第2位を獲得するなど、さらなる高みへ向かって新たな進化を続ける姿がまぶしい。

取材・文:宮本明