「だけどねアンタ、私が食べたなんこつは最高だったけれども、次の出てくるのが最高とは限らないわけ」


ほほお、イカの都合というやつか。
してさんざん、イカ俺論を展開したあとに「だけども生もの(魚介)は食べられないの」
などとぬるいことをぬかすので、だんだんこちらも火種がくすぶり始め、「あたしゃナマも焼きもしょうが棒(イカと生姜のねりもの。焼いて食べる)も、こちらのなら全部大好きですけどねえ」と鼻の穴を膨らませて言ってやった。
そこへあつあつのしょうが棒が登場。

「ごめんね。ついついあなたがカッコいいからって、しゃべり過ぎちゃったね」
そうだ、その通りだ。イカと真摯に静かに向き合う。それが「やきや」ファンの魂だ。


「オレってね、週末はテニスするの。3時間ぶっ通しでやるんだけど、水を一滴も飲まないの。それはここでビールを美味しく飲むためにね」突然趣味の話を始める。たぶん水は飲んだほうがいい。


「最近、近所でたまたま知り合った美人がいてね、テニスに誘ったわけ」
口ぶりはいきなり告白調だし、たまたま知り合うとはどんな流れだ。
「一緒にテニスやりたいって彼女がゆうから誘ったのよ。
ところがだ。旦那さんと来ちゃったわけよ。そりゃそーだよねー」
よくわからんが、そーでしょうよ。話はまた飛ぶ。
「オレ、今日はかみさんとケンカして飛び出して来ちゃったの」
なんでもおっちゃんが作った料理に文句を言ったとかでケンカになり、
「やきや」に向かってきたのだそうだ。雨の中。