今、この瞬間、いちばんおもしろいマンガはどれか。
――そんなシンプルで奥深いキャッチフレーズを真っ正面から掲げ、今年5回目を迎えた「マンガ大賞」。一切の企業や団体をスポンサーに付けない完全な“マンガ好きの趣味人による自腹企画”だが審査眼は確かで、これまで数々の傑作をいち早く世に知らしめてきた。
今回は3月23日に開催された「マンガ大賞2012」授賞式を取材できる機会があったので、現場の様子をレポートしたい。
授賞式の舞台となったのはニッポン放送イマジンスタジオ。昨年は東日本大震災の影響で授賞式が行なわれなかった(オンラインでの発表のみ)ため、2年ぶり4度目の開催となる。まず会場前の通路にはノミネートされた全15作品の単行本・掲載誌が並び、ヒネリの効いたキャッチコピーとともに来場者を迎えてくれた。さらに通路の奥には歴代受賞作品の単行本と、作者本人による受賞記念イラストも展示。過去の受賞タイトルは『岳 みんなの山』『ちはやふる』『テルマエ・ロマエ』『3月のライオン』と非常に豪華な顔ぶれである。
授賞式が始まり、実行委員からの挨拶に続いて最初に登場したゲストは『ちはやふる』作者の末次由紀氏。やや緊張した面持ちで壇上に立ち「まだ巻数が3巻くらいの時に強い光を当ててくださって、とてもそれからの励みになりました。“受賞したのにふさわしい漫画にしていかなければ”と目線が上がった大事な賞です」と語った。マンガ大賞2009を契機に『ちはやふる』が話題となり、のちに講談社漫画賞受賞、今年1月からテレビアニメ放送中、作品の影響で競技かるた人口が増えたと新聞で報じられるなど、現在絶好調の末次氏だけに、このマンガ大賞への思いは格別なのだと感じられた。
バトンタッチされた次のゲストは『テルマエ・ロマエ』のヤマザキマリ氏。海外在住のため受賞した2010年にはスカイプを使ってのビデオ出演だったが、今回はみずからが初めてマンガ大賞の授賞式会場に姿を見せた。他のゲスト漫画家は撮影NGとしたのに、自分だけ撮影OKを選んだことに触れ「どうしようもない被写体ですけど」「最初から分かっていたらみんなと同じ(撮影NG)にしてましたよ」「私も“謎の人”にしておけば良かったな」と軽妙なトークを連発。来場者を笑わせた。自身を一躍メジャー漫画家にした『テルマエ・ロマエ』については「全然売れると思って描いたんじゃないんですよ」「全国で500人が読んでくれればいいと思ってたので、なんでこんなこと(大ヒット)になったのかな」など戸惑いつつも冷静に受け止めている様子だった。その発端となったマンガ大賞には「これが私の人生を変えました!」と力強く語り、やはり並々ならぬ思い入れを見せてくれた。
そしていよいよ、プレゼンターも務めるヤマザキ氏の口から「マンガ大賞2012」が発表されることとなった。今年の受賞作は『銀の匙 Silver Spoon』。北海道の農業高校を舞台に、夢をもたず入学した秀才少年がカルチャーショックを受けながら成長していく青春コメディ漫画で、作者は『鋼の錬金術師』で知られる荒川弘氏だ。