【マンガ大賞2012 最終順位・獲得ポイント】
 大賞『銀の匙』 荒川弘 76ポイント
 2位 『大東京トイボックス』 うめ 61ポイント
 3位 『信長協奏曲』 石井あゆみ 57ポイント
 4位 『昭和元禄 落語心中』 雲田はるこ 49ポイント
 5位 『25時のバカンス 市川春子作品集Ⅱ』 市川春子 46ポイント
 6位 『ドリフターズ』 平野耕太 43ポイント
 7位 『グラゼニ』 森高夕次・アダチケイジ 41ポイント
 8位 『アイアムアヒーロー』 花沢健吾 40ポイント
 9位(得票同数、2作品) 『外天楼』 石黒正数 37ポイント
 9位 『高杉さん家のおべんとう』 柳原 望 37ポイント
 11位 『日々ロック』 榎屋克優 32ポイント
 12位 『惡の華』 押見修造 28ポイント
 13位 『四月は君の嘘』 新川直司 27ポイント
 14位 『鬼灯の冷徹』 江口夏実 24ポイント
 15位 『となりの関くん』 森繁拓真 12ポイント
 (※ポイント算出は103名の選考委員による投票制)

壇上に呼ばれた荒川氏は今回の受賞について「名誉ある賞をいただきありがとうございました。選んでくださった書店さん、支えてくださった出版の方々、仕事場のアシスタントさんたちや家族、取材先でお世話になった方、何よりも読んでくださった読者の皆さんに、心からお礼を申し上げます」と丁寧に述べた。実行委員から受賞者に贈られる手作りのプライズ(贈呈品)は今年も用意され、ヤマザキ氏から『銀の匙 Silver Spoon』担当編集者の坪内崇氏へと手渡された。写真上はそのときの様子、写真下は受賞記念に荒川氏が描き下ろしたイラストである。

   

 









……こうして今年の授賞式も無事に終了したのだが、あらためて感じたのはマンガ大賞というイベントの「自由さ」「身近さ」だった。冒頭にも少し書いたように、この賞は組織の後ろ盾が何もなく100パーセントの手作りである。発起人であるニッポン放送アナウンサー・吉田尚記氏をはじめ選考委員たちは、ノミネートされた作品をすべて自腹で読んでから投票している。運営全般も自腹、ゲストで訪れる漫画家の交通費まで自腹、授賞式で流された美麗なムービーも映像のプロが“漫画好きだから”という理由により報酬ゼロで引き受けてくれたそうだ。

そんな背景があるためか、記者が今まで取材してきた別の漫画賞と比べてマンガ大賞は堅苦しさがまったくない。たとえば今回の授賞式終盤で、少年サンデー編集部の坪内氏が「連載の場が小学館に変わりましたが、別に荒川先生はスクウェア・エニックスとケンカしたわけじゃないんですね?」「『銀の匙』映像化の予定はないですか?」などと鋭すぎる質問を受け、「ケンカしたという話は聞いていません」「映像化の話は来ていますがまだ発表できる段階にはありません」とタジタジになりながら応答する場面が見られた。こんなタブーすれすれの質問は、大きな組織が主催する漫画賞ではやれないことだ。

また、授賞式の様子が動画サイト「ニコニコ動画」で生中継され、視聴者からのレスポンスを司会者が手元のノートPC読みながら進行していくという試みも楽しかった。ヤマザキ氏がトークを繰り広げている最中にも、視聴者からの「いい声だ」「男前」といったコメントが会場の本人にリアルタイムで届けられていた。こうしたインタラクティブ(双方向)な演出は近ごろだと声優イベントなどで見かけるようになってきたが、漫画賞の授賞式で実施されるのはきわめてレアではなかろうか。いずれにせよ会場内は終始リラックスした雰囲気で、『テルマエ・ロマエ』と『ちはやふる』の作者が隣同士で座って和やかに会話している貴重なシーンも記者席から見ることができた。

来年以降もこの自由で、そして読者目線から“おもしろいマンガ”を教えてくれるマンガ大賞が末永く続くことを、一人のマンガ好きとして心より願っている。 

パソコン誌の編集者を経てフリーランス。執筆範囲はエンタメから法律、IT、教育、裏社会、ソシャゲまで硬軟いろいろ。最近の関心はダイエット、アンチエイジング。ねこだいすき。