イラスト:上田 耀子

結婚すると避けられないのが、夫の実家とのお付き合い。

最初はなんとかやっていけるだろうと思っていたある妻は、義母の非常識な考え方、そしてそれを疑問に思わない夫へのストレスで不眠症になり、最終的に離婚を選びました。

「縁を切ろう」と決めるまでにどんな葛藤があったのか、リアルを伺ってきました。

お金がないことは知っていたけど・・・

「結婚したとき、私は29歳で元夫は32歳、出会いは合コンでしたが交際は順調ですぐ結婚の話が出るくらい仲は良かったです。

彼の家は母子家庭で、父親は彼が小さいときに病気で亡くなっていて、4歳年上のバツイチの兄がいることは知っていました。

実家には母親と兄とその息子が住んでいて、遊びに行くと挨拶くらいはするのですが、結婚するまであまり深い関わりはなかったですね。

いざ『結婚しようか』って話になったときに、彼からは

『俺の家は母親と兄の稼ぎだけだからあまりお金がない』

『甥っ子は高校を卒業してからアルバイトで食いつないでいる』

など、要は『結婚生活に実家の支援は望めない』ことを言われたのですが、私自身は看護師で十分な年収があるし、まったく問題ではなかったです。

実際、結納金はなかったし婚約指輪は5万円のもので、結婚指輪だけは私の貯金からちゃんとしたものを買ったけど、いま思えば彼の実家から何も言われなかったのは『それが当然』と思われていたのかもしれませんね。

おかしいなと思ったのは入籍してからで、ちょくちょく義母が元夫にお金を借りに来ているのは知っていたけど、その回数が増えてから。

元夫は私に何も言わずにお金を渡していて、家計のことは気にならないのかなとちょっとしたストレスを感じるようになりました。

ボーナス時期になると元夫のスマホに電話がかかってきて、もらったボーナスを『半分渡したから』と言われたときはさすがにびっくりしました。

『せめて、ひとこと相談して欲しかった』

と言うと、

『俺の実家のことなのに、どうしてお前の意見が必要なわけ?』

と真顔で返されて、ショックで胸の動悸が激しくなり、息が苦しかったのを覚えています。

私のほうが元夫より年収が高く、それに甘えていたんだろうなと思いますが、

『私が一生懸命働いて稼いだお金ばかりが生活費に使われて、夫の稼ぎはほとんど義実家に流れる』

という現実が苦しくて、元夫になんとか気持ちを理解してもらおうと思っても、何の疑問もなく『出すのが当然』と思っている夫と向き合うのがつらくてできないままでした。

ストレスから不眠症に

義実家に行っても元夫の機嫌をとるだけで私にはお茶だけ出して放置する義母や、挨拶もせずさっさと自分の部屋に戻る甥っ子などと接するのがつらくなって足を向ける機会が減り、この頃から夜寝ようとすると動悸がして眠るまで時間がかかるようになりました。

なんとかしなければと思っても日中は寝不足のまま仕事に行く日が増えて、ミスなくこなすことが精一杯で帰宅したらそのままソファで泥のように寝てしまうようになり、上司から

『明らかに不眠症だから、ちゃんと診察を受けて』

と言われてしまいました。

不眠症の原因はもちろん元夫と義実家とわかってはいても、向き合う気力がなくて処方された薬を飲んでごまかしていたのですが……。

ある日、元夫から

『兄が仕事をやめて自営業になる。

うちからも支援のお金を出すからな』

と私が個人的に貯金している通帳と印鑑を渡すように言われました。

『え、なんで私のお金を使うの?』

と当たり前のように手のひらを向ける元夫に呆然としながら言うと、

『旦那の家に金を出すのは常識だろ』

と以前と変わらない声で言われ、さすがにそのときは『考えさせて』と断りました。

ありえない義母からの言葉

元夫は不満そうでしたが私が通帳と印鑑を渡す気がないと知ると黙り、その次の日のことです。

珍しく義母から私のスマホに着信があり、出てみると

『○○ちゃんから話があったと思うけど、世間の常識では嫁が夫の実家に尽くすものなのよ。

これまでもそうしてきたし、これからもそうしてもらわないとあなたが恥をかくわよ』

と真っ先に言われ、目の前が真っ暗になりました。

それからは長男がいかに素晴らしい商才があるか、元夫の次男がどれだけ親孝行で近所に鼻が高いか、えんえんと義母は話していましたが、

『それって、すべて私がいたからできたことですよね……』

と思わず言ってしまい、すると

『あら、当たり前じゃない。あなたはうちのお嫁さんなんだから』

とバッサリ。

これを聞いた瞬間、

『ああもうダメだ』

と心の中でガラガラと何かが崩れる音がして、離婚を決意しました。

”尽くすのが当然、そうしないと恥をかくのは嫁”。そんな常識を私は聞いたことがないし、これからもずっとこうやって搾取され続けるのかと思うと、耐えられなかったですね。

どうして今まで離婚の文字が浮かばなかったのか、おそらく不眠症もあってまともな考え方ができなくなっていたのかもしれません。

それからは改めて心療内科に通い、カウンセリングを受けながら離婚の準備を進め、友人などいろんな人の助けを借りながら何とか立ち直ることができ、元夫に

『あなたの家の常識に従うつもりはない』

と離婚届を差し出しました。

案の定、元夫は狂ったように怒って私を罵ってきたけど、

『わかりました。弁護士にお願いしてあるので調停を開きます』

と言うと黙りましたね。

『卑怯じゃないか』

と鬼のような顔で言うので、

『私のお金をあてにして自分の実家にばかりいい顔をするのは卑怯じゃないの?』

と答えると拳が飛んできたのでそのまま警察を呼び、夫は家を出ることになりました。