大の飛行機嫌いで、沖縄にも行ったことがなかった自分が、ここまで常軌を逸してしまった理由はいくつかある。まず、今回のツアー名に冠された最新アルバム『musium』が、ポップスの可能性/スキマスイッチの可能性をどこまでも広げる、すばらしい作品だったこと(前にこんなのも書きました)。それと、前作『ナユタとフカシギ』を引っさげた全国ツアー『TOUR 2010 “LAGRANGIAN POINT”』以降、イベントやフェスで見たライブがどれもとってもよく、しかも見るたびに進化し続けていたこと。
つまり、傑作を引っさげたツアーというタイミングで、ライブアクトとしてメキメキと進化する彼らの“本領”を、この目で確かめたかったのだ。この機会を逃してはいけない、それだけの価値がこのライブにはあると、確信にも似た予感があった。それだけ自分のハードルを上げて、沖縄に乗り込んだのである。そして結論から言うと、その期待は裏切られるどころか、想像をはるかに超えたステージが待っていたのだった。
開演時間が押す中、グッズ売り場の列を横目に会場に入ると、ステージ前にはツアータイトルが書かれた白い幕が張られている。客席はもちろん満員だ。ほどなくして電気が落ち、「コツ、コツ、コツ」足音が響く中、ステージ上にメンバーが登場。「コツ、コツ、コツ…」足音が止まる。そして何度もCDで聴いた、あの痺れるイントロが常田真太郎の手で奏でられ、大橋卓弥の声が重なる。
<永遠? そう言うならそれもそうかも/瞬き? それもまた間違いじゃない>
『時間の止め方』だ。目の前の景色が次々と色褪せていくような困難な日々の中でも、言葉と旋律=音楽が鳴っているこの瞬間だけは、繋がることができるのではないか――アルバムの幕開けを飾るこの曲は、いまのスキマスイッチの音楽、そしてオーディエンスに対する愛やアティチュードが表明された、ライブの幕開けに相応しい、熱く真摯なナンバーだ。個人的に『musium』の中でもっとも生で聴きたかった曲なのだが、どっしりとした、かつうねるグルーヴの迫力は想像以上で、これから始まってゆくライブの高揚感をジワジワと煽っていく。
そしてサビに突入した瞬間幕が落ち、メンバーの姿が露になると、湧き上がる歓声! ステージには、向かって左からキーボード大島俊一、トランペット田中充、サックス本間将人、ギター石成正人、ドラム村石雅行、ベース種子田健、パーカッション松本智也という、これまでもスキマスイッチの多層的なサウンドを支え続けてきた鉄壁の布陣。中心にいるのはもちろん、スキマスイッチのふたりだ。ステージ後方には、アルバムジャケットに登場するフクロウのモチーフが掲げられている。これが今日、スキマスイッチが創り出す『musium』の世界なのである。