小橋君子役の木村多江

 NHKの連続テレビ小説「とと姉ちゃん」で、“父親代わりの長女”小橋常子(高畑充希)をはじめとする三姉妹の母・君子を演じている木村多江。夫の竹蔵(西島秀俊)の死後、陰ながら娘たちを支え続けるが、母親の滝子(大地真央)との間には確執がある。君子への思いと共に、現場の様子を木村が語った。

-常子を演じている高畑さんの印象はいかがですか。

 最初に会った記者会見では、“女優さん”という感じのキラキラした女の子だなと思いました。でも、一緒に過ごしていくうちにすごく繊細な部分もあり、人を思いやることができる人だなって。それでいて関西人なのでノリや突っ込みがすごくいい(笑)。今、現場では、「(ネタを)振られたらどんなことでもやる!」というのが“小橋家の家訓”になっていて、私がボケると必ず充希ちゃんが突っ込んでくれます。面白いですよ。

-その家訓は誰の提案によるものなのですか。

 最初は、現場が楽しくなればいいなと思って、私がいっぱい変な“振り”を始めたんです。みんなは初めは嫌々付き合ってくれていたのですが、それがだんだん常態化してきて…。今では、待ち時間に例えば(お笑いコンビの)ピスタチオさんのまねとか、ふざけたことをやってみんなで和んでいます(笑)。

-現場で俳優同士の絆が生まれたことは、芝居にも良い影響を与えていますか。

 そうですね。やっぱりお父さん(とと)が亡くなったということで、君子たち四人はその隙間を埋めようと必死に、互いをいたわり合いながら生きています。空き時間も仲良くしていることで生まれた“愛にあふれた空気”というものが、映像にもにじみ出ていると思います。

-三人娘の印象は?

 三人とも、ちょっといい子過ぎて大丈夫かな?って。親としては「ちょっとぐらい反抗期があってもいいのよ」と思うぐらい、みんないい子です。常子は、思い悩みつつも、家族を引っ張っていくために前向きに切り開いていこうとする子。次女の鞠子は、常子が『やろうよ!』と言っても『え~』という感じで、常に一歩引いてしまうタイプの子。美子はとにかく要領がいいタイプ。こっちでお菓子をもらっては、あっちでも『おなかがすいた』と言って食べ物をもらったり…。生きていくには一番タフなタイプだと思いますね(笑)。

-木村さんご自身は、君子と三人の娘のどのタイプですか。

 私も君子も少し抜けているところは似ていると思います(笑)。でも、やっぱり私も長女なので、常子っぽいかな…。私も父が早くに亡くなっているので、常子のようにやってきた面もあるのかなと思います。

-君子は、夫を亡くしたり、母親との仲が悪かったり、さまざまな背景を持った女性です。木村さんが思う君子像とは?

 君子は愛情深い人。根本的には、子どもたちを応援するというスタンスと、子どもたちが幸せでいることを要にして生きている女性だと思っています。また最初に台本を読んだ時は「絵に描いたような良妻賢母なのかしら」と思っていたのですが、今回は「母は、また同時に娘でもある」という部分がきちんと描かれている。それが演じる上での醍醐味(だいごみ)になっています。

-優しい母親というだけではないのですね。

 君子は、おっとりしているけれども、ほぼ駆け落ちのように竹蔵さんと(実家のある)深川を出てしまった“情熱の人”でもあります。激動の時代をしなやかに、伸びやかに乗り切っていく…。おっとりしているだけではない、多面的な部分が君子の魅力ですね。

-君子の母親で材木問屋「青柳商店」のおかみ、滝子を演じる大地真央さんの印象はいかがですか。

 真央さんはあまりにもきれいで美の秘訣(ひけつ)をいつか聞こうと思うのですが、なかなかその勇気が出ないほどに神々しくて…。また、真央さんは素晴らしいコメディエンヌだなと思っていたのですが、案の定、今回そういう一面が見られます。(青柳商店の筆頭番頭である隈井栄太郎役の)片岡鶴太郎さんがアドリブでガンガン攻めてくるのですが、そこに真央さんも太刀打ちしてくる。さすがだなと思います。

-お二人のアドリブの応酬が見られるということですね。

 はい。結構、私、堪え切れなくなって、笑っちゃっているシーンがあるんです。よくNGにならないなって思うんですが。何度か見ていただくと、私が下を向いて笑っているのに気付くかもしれません(笑)。

-今回、君子は「母でもあり、娘でもある」ということですが、演じる上で気をつけている点はありますか。

 子どもたちの前で見せる顔と、滝子さんの前で見せる顔は変えようと思っています。自分が母親の時は、ちゃんと“お母さんであろう”としているので「こら、いけませんよ」と丁寧な口調で話すのですが、自分が娘の立場だと「なんでお母さんそういうこと言うの」と強い口調になってしまったり…。親子だと、親に対しての甘えもあるので、素が出てしまうんです。女性は母親に対して、同性だからこそ譲れないところもあるし、何かしらの思いを抱えています。皆さんに共感してもらえるよう演じられたらと思います。

-滝子に猛反発する君子ですが、滝子の言っていることも一理ありますよね。

 私も台本を読んだ時に「君子も、もうちょっとうまくやればいいのに…」と思いました(笑)。君子は社会に出たことがなくて、ととが亡くなって初めて社会の厳しさを知ります。だから母の言うことももっともだと気付いているけど、自分がととと築いた幸せな家庭や大切にしてきたことなどを、ととがいないだけに、自分が貫いていかないといけないと思っている。だからそこはかたくなになってしまうのかなと思います。

-常子の名前は、君子と同様に、百人一首の歌に由来しているというエピソードが印象的でした。

 君子という人は、お母さんといろいろとぶつかり合ってきたけれど、きっとお母さんのことをものすごく尊敬していたし、潜在意識の中ではお母さんに愛されたいという気持ちがとても強いのだと思います。だからつい、無意識のうちにお母さんを追って、娘を名付ける時に同じことをしたのかなと私は感じています。