「今日はね、忘れた傘を取りに来たのよ。
マスターにお礼のお寿司買おうと思って、そこの天下寿司に行ったわけ」
すると15分待つと告げられ14分目でイライラしだし、
15分過ぎたところで、「なんでこんなに待たせんダー!」
と怒ったら16分目で寿司折りが出てきたらしい。
よってその店は今日から「けんか寿司」と命名。
「でもって傘だけ取りにくるはずが、いっぱい飲んじゃってるの」と言いながら、
つまみも食べずにすいすいと瓶ビールを空けている。

すると、やや薄毛のサラリーマンが
「このおじさん、邪魔しちゃってごめんなさいね」と言いながら、
私にビールを注いでよこす。けんか寿司のオッチャンが、
「けっ、ちょっと結婚して子どもできたからってえらそうに」
と薄毛に応戦する。

それまで我関せずしぶい顔つきでかまえていた若マスターが、ふいにのっかる。
「そうだそうだ、テニスコートみたいな額しやがって」
おもわずツボにはまりそうになりながら彼を見れば、
「まだこんなにありますよう~」
と後頭部をにこにこ見せながら、今度はポップコーンを配り始めた。
のどか…だ。なんて牧歌的なブクロの一角。

「まあボクもハゲだけどね」と唐突に薄毛自慢に乗っかってくるのはけんか寿司。
「でももう50なのよ」と自慢げに言う。見えなくもないが「見えませんね」と言えば、
「そう? 今マラソンやってるの。マスターからハゲランナーって呼ばれてるの。
これが嬉しくって」