嬉しさの定義がもうぜんぜんわからないが、50にして独身だと続ける。
プロポーズしたこともされたこともないという。
「加藤茶…」いきなりけんか寿司がつぶやく。
「加藤茶だって結婚できんだから、ボクだってできなくないって思ってますよ?」
そうかもしれない。ぜひがんばってほしい。

「ところでお宅らはデートでよく来るの」と聞く。
後輩男子も私も先だって結婚したが、相手はべつだ。
ともに仕事熱心な伴侶を持ったため、こうして暇つぶしに酒を飲みかわす相手として、
いたしかたなくつるんでいる。
「や、恋人でも夫婦でもないんです、単なる飲み仲間で」
「そいつはいけないね!」いきなりけんか寿司がてきとーな意見をする。
夫婦になったらどこに行くのも一緒、というのが五十路けんか寿司の理想らしい。

そのわりには、
「今は合コン行ってジム行って東京マラソン出て、そんな毎日。
女の子に声かけるのは学生時代から得意なのよ」と
まったくもってリア充なことを言う。
「なんかいいですね、糸の切れたタコみたいで」
思ったまま口にすると、けんか寿司が絶句した。
「なぜ…それを」
「え、タコが何か」
「いや、うちのお袋がボクに会うたび言うの。糸の切れたタコって。
結婚してないからね、しそうな感じもしないしね…」

母上の気持ちが慮れる。ふいにいつかのYちゃんの言葉が蘇った。
結婚はすばらしいし、独身もすばらしい…?