これは、前田敦子の最高傑作なのではないか。
映画では起きなかったことが、深夜30分という連続ドラマの枠だからこそ起きている。
『毒島ゆり子のせきらら日記』第6話で、主人公は初めて怒りをあらわにする。彼女が明確に怒りを発動することは、それまでの5話ではなかった。
わたしは、これは女優・前田敦子が怒る芝居を見せない作品なのではないかと考えていたが、その予測は呆気なく外れ、さらに想定外のことが起きた。
前田はこのドラマで、かつて見たことのない顔面演技を披露
第2章(女優・前田敦子はどう進化した?『マジすか学園』から『毒島ゆり子』に見る新・可能性【第2章】:ウレぴあ総研)で記したように、前田はこのドラマでかつて見たことのない顔面演技を披露している。
それは、彼女がこれまでの映画で披露してきた全身演技とは別種のもので、映画で培ってきた表現はあえて封印しているのではないかと思えるほどだった。
ところが、桑原ナナミ(中村静香)に、「あなたは不倫オヤジ(小津翔太/新井浩文)の性欲のはけ口になっているだけだ」という言葉を突きつけられ、逆上する。
小津さんを罵倒されたからではない。己の恋を否定され、汚されたからである。
そして、ナナミが指摘するように、そのことに対する不満が自身の体内に渦巻きながら、それを見て見ぬふりをしていたからだ。そう、わかっているはずのことを、わからないフリをしていた自分の浅はかさに直面せざるをえないから、毒島ゆり子は逆上した。
怒りが発動した瞬間の前田敦子は、映画女優、前田敦子であった。
のっそりと立ち上がった感情が、仏頂面のまま、その身体を歩かせ、あたかも夢遊病のごとく、相手に向かって突進していく。
こころと肉体が単純に結びついているのではなく、肉体とは乖離したこころが、肉体を動かしているのだという、超絶的な真実を、問答無用の凄みと迫力で提示する。
それは映画女優、前田敦子にしかできぬワザなのだが、それがこのドラマで発揮されるとは!
しかも、毒島ゆり子のキャラクターが豹変するわけではない。これまで演じてきた主人公のありようはキープしたまま、人間という生きものが怒るときに特有の現象として、このきわめて映画的な演技を溶け合わせている。目を見張った。
第7話には、家庭人としての小津を目撃した毒島ゆり子が腰を抜かすが、その後の、這いつくばったままの歩行には鬼気迫るものがあった。