振り返ってみれば、デップのキャリアの前半期はハリウッドの王道に背を向けて個性派を目指す苦難の道でもあった。だが『パイレーツ・オブ・カリビアン』の大成功によってデップは自分の流儀を貫きながらメインストリームで成功する偉業を成し遂げたわけで、ついに手にした業界への影響力を、本当に自分が作りたい映画のために行使したいと考えるのは自然な流れだろう。

デップは実妹クリスティ・ドンブロウスキと共同で製作会社インフィニタム・ニヒルを'04年に設立。実現はしていないが、ジョン・ウー監督で企画が進んでいたSF西部劇『CAIBER』など気になる企画を多数抱える。
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実際「インフィニタム・ニヒル」の第1回作品は、デップが90年代末から温めてきた念願の企画『ラム・ダイアリー』である。同作はデップが'98年に主演したカルト作『ラスベガスをやっつけろ』の姉妹編とも言える内容で、一時はベニチオ・デル・トロの監督デビュー作になるはずだったが頓挫した経緯がある。現在のデップのパワーをもってすれば、幻の企画も復活させることができたというわけだ。

今年のアカデミー賞で『アーティスト』と各部門を争った『ヒューゴの不思議な発明』も実はデップがプロデュースした「インフィニタム・ニヒル」の作品で、今後もディズニーとのタイアップなど複数の企画が同時進行中。ブラッド・ピットやディカプリオら自身の製作会社を持つ映画スターは珍しくないが、デップ本来のマニアックな嗜好がハリウッドをさらに面白くしてくれることに大いに期待したい。