世界選手権で優勝し、“東洋の魔女”と呼ばれるようになった日紡貝塚女子バレーボールチームは、紆余(うよ)曲折を経て、1964年の東京オリンピック出場が決定する。監督の大松博文(徳井義実)の下、主将としてこのチームを束ねるのが河西昌枝だ。演じるのは、連続テレビ小説「まんぷく」(18~19)に主演した安藤サクラ。東京オリンピックのハイライトともいえる“東洋の魔女”役に対する意気込みを語ってくれた。
-オファーを受けたときのお気持ちは?
まさか、声を掛けていただけるとは…と驚きました。「いだてん」は、一視聴者として見ていて、大好きな番組でしたから。物語が後半に差し掛かっていたこともあり、このタイミングで呼んでいただけるとは想像もしていなかったので、心がウキウキするほどうれしかったです。しかも、東京オリンピックで金メダルを取り、“東洋の魔女”と呼ばれた女子バレーボール日本代表の主将を務める河西昌枝さんという大役。正直、私はバレーボールの経験がないため、多少の不安はありましたが、脚本を拝見すると出演シーンもそれほど多くはなかったので、「これならできるかも」と出演を決意しました。
-バレーボールの練習はどのように?
バレーボールの練習は1日2時間程度、10日間ほどの日程が組まれていたと思います。私のような初心者がオリンピック日本代表選手のように見えるようになるためには、短過ぎたかもしれません。ただ、練習や撮影の際には、斎藤真由美さんやヨーコ・ゼッターランドさんというそうそうたるプロの方たちから実技指導を受けることができました。撮影のためとはいえ、一流の方にご指導いただけるなんて光栄ですし、本当に感謝しています。こんなぜいたくな経験は、大河ドラマならではです。
-指導の成果はいかがでしたか。
とはいえ、実際に形にするのは簡単ではありませんでした。私のような素人が東洋の魔女の回転レシーブをやると、全身に見たことのないようなアザができる、ということだけは皆さんにお伝えしておきたいです(笑)。
-河西選手を演じる上で、どんな準備を?
河西選手は、いつも爪に透明マニキュアを塗っていらしたそうです。そのお話を伺い、バレーボール一色の生活の中にも、女性らしさを大切にされていたことが分かるエピソードだなと、非常に心に残りました。ご本人の写真も拝見しましたが、印象的なパーマをかけていらっしゃったので、大変おしゃれな方だったんだな…と。だから、私も演じる際には、髪形や爪など細かいところもきちんとしたいと思っていました。
-演じる上で心掛けていることは?
大松監督も河西さんをはじめとする選手たちも、太平洋戦争を経験して東京オリンピックに臨んだ世代です。あの時代を生き抜いた人だからこそ出せるエネルギーがあるはずなので、私もその熱量に少しでも近づき、ご本人の思いに応えられるよう、気持ちを持っていきたいと考えながら演じています。
-宮藤官九郎さんの脚本の印象は?
やっぱり、すごく楽しいです。「いだてん」はもちろんのこと、読んでいて「やりたい!この世界に入っていきたい!」と、強く思わせてくれるのが、宮藤さんの脚本の魅力です。また、現場に入ってみて「いだてん」の世界は宮藤さんの脚本のト書き1行が、100倍ぐらいになって描かれているんだな…とも感じました。監督をはじめ、スタッフの皆さんや俳優の皆さんの思いで膨らんでいることがよく分かりました。
-最後に視聴者へのメッセージを。
監督から、“東洋の魔女”のパートは、「いだてん」がこれまで描いてきた女子スポーツの集大成的な意味も担っていると伺い、とても重要な役目だと感じています。演じることができて本当にありがたいですし、こうした形で参加できることはすごくぜいたくなことだと、改めて思いました。また、朝ドラの「まんぷく」のときもそうでしたが、NHKのドラマは回によって監督が異なるので、いろいろな監督と組むことができるのも醍醐味(だいごみ)。朝ドラは1年半近い長期間でしたが、今回は短い期間の中でそういう出会いを経験することができ、「NHKのドラマの現場が大好き」と改めて感じています。役者としてまた貴重な経験をさせていただきました。皆さんにも楽しんでご覧いただけたらうれしいです。
(取材・文/井上健一)