近年、女優業が盛んな中山美穂。演じるキャラクターも、映画『ママレード・ボーイ』では母親、ドラマ「世にも奇妙な物語」ではラッパー、「貴族探偵」ではメイド、「時効警察はじめました」では殺人犯など多岐にわたり、R18+指定の松尾スズキ主演映画『108~海馬五郎の復讐と冒険~』にも出演するなど、イメージにとらわれずに芝居を存分に満喫している。歌手活動と並行した女優業はアイドル時代と変わらないが、その心は大きく変わっていた…。
1980~90年代、“ミポリン”の愛称でトップアイドルとして芸能界に君臨した中山。当時から歌手と女優とを両立させていたが、2000年代に入り、生活拠点を海外に移すと、芸能活動は緩やかになった。しかし近年は精力的に女優業、歌手活動を行っている。
そして、昨年も一昨年もドラマ3本、映画2本に出演。力を入れ始めたきっかけを尋ねると、「仕事を緩やかに行わせていただいている時期があり、周囲が『やらないよね』と思っている感じだったので、『やりますよ』という姿勢を積極的に見せていこうと思いました」と笑顔で答えた。
穏やかな雰囲気の中山のイメージに反する積極性だが、それは年齢やキャリアを重ね、演じることや、芸能活動に対する向き合い方が変わったせいでもある。
「若い頃は“等身大”を求められたり、自分が本当にやりたいことができず、いちいち悩んだりしていました」と苦労を吐露すると、「今は“等身大”から解放されたことで役の幅が広がったので、作品の種類に関係なく、これまで体験したことがない役を頂けるとうれしいし、演じることがとても楽しいです」と声を弾ませた。
役へのアプローチも変化した。昔は「役に成り切ることで演じようと思っていたので、家でも役と同じしゃべり方をしたり、役衣装を持ち帰って着たり、ずっと役を引きずっていました。だから、撮影が終わってもしゃべり方が抜けないときは本当に嫌でした」と渋い表情を浮かべた。
逆に今は「現場で役と自分の切り替えがパンッとできるようになりました」と喜ぶと、「普段の自分が味となって役ににじみ出てくるような女優になりたい」と、素の自分を役に投影したいと思えるようになったことも明かした。
また、今年50歳になる中山だが、「きれいに映りたい」「若く見られたい」という見栄がないのだとか。それ故に弾けた演技にも果敢にトライできるそうで、「昔は何でも考え過ぎていたけど、今は自由になった気がします。怖いとか、面倒と感じることがないので、いい具合に力を抜いて、何でも受け入れられます」と自身の変化に顔をほころばせた。
その中山が主演する「連続ドラマW 彼らを見ればわかること」は、同じマンションに住む3人の女性とその家族が抱える事情と欲望が入り乱れる大人のドラマだ。
櫂斗(生瀬勝久)と再婚し、息子の柊司(髙橋優斗)と一緒に暮らすレディコミ漫画家の百々子(中山)は、家事を夫・一太(上地雄輔)に任せるキャリアウーマンの瑞希(木村多江)とバーでストレスを解消する日々を送っていた。そんなある日、百々子の元夫の葉介(長野博)と新妻の流美(大島優子)が引っ越してきたことで、それぞれの家族の“秘密”があぶり出されていく…。
女性向け官能漫画「レディースコミック」の作家という役柄に驚いたが、中山は「何でも受け入れるタイプなので、役に対する衝撃はありませんでした」と全く気にしていない様子。
漫画についても「読み方が分からないぐらい、ほとんど読んだことがなく、絵心も全くない」と告白すると、「今さら努力してなんとかできるものではないので、それらしく見えるように撮ってもらいました」と肩をすくめながら、スタッフに感謝した。
百々子に関しては、「大学時代から漫画を描いているので、人とは違う信念も持ち、周りと比べたり、流されたりしないで、自分の意志で生きている人」と解釈し、「大きな事件が起きるわけではなく、繊細な時間の流れの中で登場人物それぞれの心が微妙に動いていくところがすてきな作品なので、分かりやすい演技よりも、何もしないけどにじみ出るような芝居」を目指したことも打ち明ける。
ドラマそのものは、「誰かがのぞいているような視点でのカメラワークはとても面白い」と語ると、「人って一生懸命になるほど滑稽に見えることってあるじゃないですか。そういうふうに百々子たちのことを見てもらえたらいいですね」とアピールした。
人生経験を積むことで研ぎ澄まされ、身軽になった中山は、「今後も素晴らしい作品であれば何でも引き受けたい」と貪欲だ。これからもトップアイドルの頃とは一味違う魅力で輝き続けるに違いない。
(取材・文・写真/錦怜那)
「連続ドラマW 彼らを見ればわかること」は2020年1月11日(土)スタート。毎週土曜夜10時 ※第1話無料放送(全8話)