コンペから見える、世界のいま

松本「今年のコンペ作品の傾向はありますか?」

矢田部「欧米の作品でいえば、今年は移民、難民を扱った作品が多かった。それだけ身近な問題なのだと思います。世界の現状を描くというのは、映画の大きな役割。しかし、それだけではお勉強の時間になってしまうので、観ていて楽しくない。ですから、まずは映画として面白いことを重視して、そのうえで問題意識も感じられるという作品を残しました」

――今年の応募作は1502本。その中から地域ごとにわけて作品選定をしていき、16本の作品に絞ったのだそう。

矢田部「欧米の映画祭と比較すると、偏りなく世界中の地域から作品を選定しているのが東京国際映画祭の特徴といえます。ただ、馴染みがない地域の作品だけに、その魅力をどう伝えていくのかが課題。

今回、コンペに選定した日本映画『アズミ・ハルコは行方不明』は蒼井優さんや高畑充希さんなど人気女優が出演しており、一般の方にもアピールできる作品です。『この作品とグランプリを競うのは、どんな作品なんだろう?』という気軽な気持ちで、コンペ作品を観に来ていただければうれしいですね」

アズミ・ハルコは行方不明 ©2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会 ©2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会

1502本から選ばれたコンペ作。特にオススメはこの作品!

――16本のコンペ作品の中、ふたりが特に注目している作品は何なのだろうか?

矢田部「エンタテインメント性という意味で、もっとも注目しているのは『天才バレエダンサーの皮肉な運命』。

映画祭で上映されるロシア映画というと、アート志向が強い印象があると思うのですが、これはそのイメージを覆してくれるヒューマン・コメディなんです。実在のロシアバレエ界の有名人が実名で登場し、虚構と現実が入り混じった展開になっています。

天才バレエダンサーの皮肉な運命 © Sergey Bezrukov Film Company © Sergey Bezrukov Film Company

社会問題が反映されているものでいえば『7分間』。イタリアの女性労働者とフランスの資本家をめぐるディスカッション映画なのですが、俳優たちの演技が素晴らしく、スリリングなエンタテインメントになっています」

7分間 ©Goldenart Production S.r.l. - Manny Films - Ventura Film - 2016 © Goldenart Production S.r.l. - Manny Films - Ventura Film - 2016

松本「私は、主人公が映画監督なのと、原作が日本の戯曲ということで『シェッド・スキン・パパ』が気になっています。これ、主人公のお父さんが脱皮するんですよね?(笑)」

シェッド・スキン・パパ ©Magilm Pictures Co., Ltd. Dadi Century (Beijing) Co., Ltd. All Rights Reserved ©Magilm Pictures Co., Ltd. & Dadi Century (Beijing) Co., Ltd

矢田部「そうです。脱皮するたびに若返っていく。でも奇想天外なだけではなく、父と息子の物語、また夫婦の物語、さらに香港の歴史も描いていて奥深い」