子供たちにトラウマを刻みつけてきた“トラウマ怪獣”とは

1966年にスタートして、いまもなおファンから愛され続けている特撮ヒーロー「ウルトラマン」。

ウルトラシリーズには、数多くの個性的な怪獣たちが登場して、ウルトラマンたちを苦しめてきましたが、そのなかには圧倒的な強さや恐ろしい姿などで、子ども心にトラウマを植え付けられたという人も多いのではないでしょうか。

そこで今回は子供の頃の記憶を呼び覚ましつつ、大人になっても恐ろしさを感じるウルトラマンシリーズの“トラウマ怪獣”に注目して、とにかく強い怪獣、凶暴な怪獣、悲劇的な怪獣など、ウルトラファンに強烈な印象を残した怪獣たちをご紹介します。

1:シリーズの歴史に残る強豪怪獣! "宇宙恐竜"ゼットン(『ウルトラマン』)

『ウルトラマン』の最終話『さらばウルトラマン』における初登場以降、各シリーズにおいて、常に強敵としてウルトラ戦士たちの前に立ち塞がり続ける怪獣……それが、ゼットンです。

『ウルトラマン』では、地球侵略を目論むゼットン星人が使役する怪獣として出現し、ウルトラマンと対決。顔から放つ「一兆度の火球」の他、瞬間移動やバリアといった多彩な攻撃方法を駆使しウルトラマンを圧倒します。そして、最後は、ウルトラマンの必殺技であるスペシウム光線を吸収し、逆襲の光線でウルトラマンを再起不能に追い込んでしまうのです。

圧倒的な強さに加えて、顔の各パーツが不明瞭な造型、不気味な鳴き声や、身体から発する「ピポポポポ……」という電子音も、その恐ろしさをより印象付けていました。

ゼットンの存在感と「最終回で、地球の平和を守り続けてきたヒーローが悪の前に倒れる」という衝撃的な結末は、今なお特撮ヒーロードラマ史に語り継がれる「伝説」となっています。

しかし、『さらばウルトラマン』というエピソードの真に重要なポイントは、「ウルトラマンを圧倒した程の強豪怪獣であるゼットンを人類(科学特捜隊)が自らの手で倒す」という、その結末にこそあります。

そして、この「地球の平和は、ウルトラマンに頼ることなく、人類が力を合わせて守り抜かなければならない」というメッセージは、以降のウルトラシリーズでも幾度となく踏襲されることになるのです。

ゼットンは、ただ単に強く恐ろしいだけではない、その後に続く作品の根底に流れる真摯なヒューマニズムを強烈に体現してくれた怪獣だといえます。

日本中の子どもたちに恐怖と悲しみを与えるのと同時に、大事なメッセージも投げかけてくれたゼットン。大人になった今も決して忘れることができない名怪獣です。

2:故郷は地球、哀しき運命を辿った悲劇の怪獣! "棲星怪獣"ジャミラ(『ウルトラマン』)

子どもの心に強い印象を残す怪獣は、ゼットンのような強豪怪獣や凶暴で極悪な怪獣だけではありません。悲劇的なシナリオによって、観る者の心に傷跡のようにその存在を刻みつける怪獣もいます。

『ウルトラマン』に登場したジャミラは、そうした怪獣の一体です。ジャミラは宇宙からやってきた怪獣であり、人間には可視不能な特殊な宇宙船を使って、各国政府の要人が乗った旅客機を次々に破壊するというテロ行為を行います。科学特捜隊の活躍によって、宇宙船を破壊されると、巨大な姿を現し火炎を吐きながら大暴れ。その姿は、まさに人間にとって脅威となる怪獣そのものです。

しかし、実はジャミラは『ウルトラマン』に登場した他の怪獣や宇宙人とは、大きく趣を異にする存在だったのです。その理由は、元は地球人(宇宙飛行士)だったジャミラが、宇宙をさまよい、辿り着いた惑星で助けを信じてまっていたものの、救いの手が届くことはなく、人間にとって生命線といえる「水」を求めているうちに、ついには水を必要とせずとも生きていける身体(怪獣)へと変貌し、いつしか人類に対する復讐の炎に心が支配されてしまい、身も心も怪獣になってしまうという経緯にあります。

ジャミラが登場する第23話『故郷は地球』は、非常に重苦しく、悲劇的なエピソードです。このエピソードの中には、一種のアイロニーが込められており、シンプルな勧善懲悪では終わらない、深い奥行きと強いメッセージ性が込められています。

ジャミラの辿った悲劇的な末路と最期の断末魔、そして、ペシミスティックともいえるラストのセリフは、何ともいえない余韻を観る者に残します。

子どもたちに向けた夢が一杯のSFエンターテイメント作という側面に加えて、こうしたシリアスで社会的な面も持っているのが、『ウルトラマン』という作品の偉大なところです。

フォトギャラリー名エピソード「怪獣墓場」が鍵!「ウルトラ木魚」サンプルフォト(画像7点)
  • (C) 円谷プロ
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3:現代社会にも通じる問題提起を酩酊感一杯の戦闘シーン! "サイケ宇宙人"ペロリンガ星人(『ウルトラセブン』)

ハイクオリティな特撮シーンとシリアスで社会性の高いシナリオからSFドラマの金字塔として、「シリーズ最高傑作」の呼び声も高い人気作『ウルトラセブン』。名作、名キャラクターが数多く存在していますが、今回はペロリンガ星人をご紹介します。

第45話『円盤が来た』に登場するペロリンガ星人は、自分たちの円盤を星に偽装し、地球に接近。偶然、その円盤を発見したアマチュア天体観測家のフクシン青年の前に少年の姿を借りて姿を現します。

本エピソードの主要登場人物であるフクシン青年は、職場でも近所でも周囲に馴染むことができない孤独な人間です。円盤を見たと話しても誰にも信じてもらえず、果ては、防衛組織(ウルトラ警備隊)への通報も無視されてしまう始末。そんなフクシン青年をペロリンガ星人は、言葉巧みに誘惑しようとするのですが……。

『円盤が来た』は、社会に上手く順応できない孤独な人間の姿を物語の軸として描いた、非常にドラマ性の高いエピソードです。観終わった後に何とも言えないモヤモヤ感が残るラストシーンには、現代社会にも通じる問題提起が込められています。

そんな大人びたシナリオに加えて、「全身ケロイド状態の雄鶏」のようなペロリンガ星人の不気味な容姿と、戦闘の派手さよりも映像美を追求したセブンと円盤の対決シーンのサイケデリックな映像が、このエピソードを絶対に忘れられない特異な感触を残すものにしています。

前衛的で"アート"な戦闘シーンと社会から孤立した青年の姿を描くシナリオ……『円盤が来た』は、大人になった今こそ観返して、製作者の意図をジックリと噛み締めたくなる名エピソードです。