小林研一郎

多くのファンに愛される「炎のコバケン」。指揮者の小林研一郎が4月に満80歳(傘寿)を迎える。これを祝う記念プロジェクト「マエストロ小林研一郎80th祝祭演奏会」についての会見が開かれ、マエストロ自ら意気込みや抱負を語った(1月28日・東京文化会館内)。

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小林は会見冒頭、今年の大相撲初場所で33歳にして初優勝を果たした徳勝龍の「もう33歳ではなく、まだ33歳」という発言を引き、「私も同じ気持ち。80歳を迎え、そこからまたもうひとつ輝く世界、80歳の階段を登りつめたときに見える景色に期待しながら、そしてオーケストラという、とてつもない才能の集団の方々に、何か新しい光のようなものを(示す)、そのために作曲家の行間のうちを相当勉強しなければならないと思っています」と、変わらぬ真摯さで音楽に向き合う姿勢を語った。

プロジェクトは3つのコンサート企画から構成され、すでに昨年9月、「VOL.1 ハンガリー放送交響楽団 日本公演」でスタートしている。そしていよいよ80歳イヤーの今年開催されるのが、4月のサントリーホールでの「VOL.2 チャイコフスキー交響曲 全曲チクルス」(管弦楽:日本フィル)と、11月の東京芸術劇場での「VOL.3 ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団 日本ツアー」。

チャイコフスキーは小林が得意とする作曲家のひとり。最近では2013~2015年にロンドン・フィルとスタジオ録音した交響曲全集が大きな話題となった。小林が「命綱」と形容する強い絆で結ばれた日本フィルとともに演奏する今回は、5日間にわたって、もちろん《マンフレッド交響曲》も含めて全曲を網羅する完全版。公演2日目の4月9日が80歳のバースデー当日だ。チャイコフスキーは今年生誕180年なので「80年」つながりでもある。

「チャイコフスキーの持っているペシミスティックな、あるいは救いようのない苦しみの世界。その苦しみの大叙事詩をお見せできたら、今までとまったく違うチャイコフスキー観が生まれるかもしれない」と小林。

ハンガリー国立フィルとの共演歴も長い。1974年、小林が世界へ羽ばたくきっかけとなったブダペスト国際指揮者コンクールのホスト・オーケストラだったから(当時「ハンガリー国立交響楽団」)、すでに45年以上の付き合いだ。「彼らと新しいことをやる時には、なぜかいつもこの曲」というマーラーの交響曲第2番《復活》(ソプラノ:市原愛、アルト:山下牧子、合唱:東京音楽大学)や、ベートーヴェンの交響曲第7番などを演奏する。

「炎のコバケン」という呼び名には恥じらいを感じるという小林。燃え上がるのではなく、自身は冷静に、むしろ炎に水をかけているのだと、独特の言い方で表現したが、いずれにしても「老いては益々壮(さか)んなるべし」。そのベースの炎の勢いは、80歳を迎えてなお、まったく衰えることはなさそうだ。

取材・文:宮本明