宮藤官九郎監督

 今年6月に劇場公開されたヒット作『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』のDVD&Blu-rayが12月14日に発売される。本作は、不慮の事故により地獄に落ちた高校生・大助が大好きな女の子にキスしたい一心で、赤鬼キラーKと共に現世に転生するチャンスを目指して奮闘する奇想天外なコメディーだ。監督は、脚本家としても数々のヒット作を手掛ける宮藤官九郎。数々の作品でコンビを組み、本作では赤鬼キラーKを演じた長瀬智也のことや、4本目の監督作に込めた思い、見どころなどを聞いた。

-本作の企画自体は、2013年の監督第3作『中学生円山』と同じころにスタートしたそうですね。

 『中学生円山』が軌道に乗り始めたころに、最初のプロットができたぐらいです。もともと、地獄に落ちた高校生がはい上がろうとする話と、長瀬くんと一緒にロックの映画をやりたいということは、別々に考えていたんです。そこで、長瀬くんに地獄の鬼をやってもらえれば、両方一緒にできるんじゃないかと思って、具体化していきました。

-時間がかかったのはどんなところですか。

 内容ですね。長瀬くんとは何本も仕事をしていますけど、前にやったドラマから5年ぐらいたっていたので、そろそろ一緒にやりたいなと思ったんです。でも、やるからには今までとは違うもので、なおかつ越えるものじゃなきゃいけない。長瀬くんが乗ってくれるような内容にまとめるのに時間がかかりました。

-宮藤監督にとって、長瀬智也さんはどんな俳優ですか。

 やっぱり一番の魅力は、感情表現がダイナミックなところです。うれしい時は本当にうれしそうに笑うし、悲しい時はなりふり構わず泣いてくれるし…。抑えた演技の方がかっこいいからみんなやるけど、抑えない演技ができる役者さんはあまりいないですよ。僕の中ではそういう演技ができる俳優の筆頭で、長瀬くんとやりたいという気持ちは強いです。

-久しぶりの長瀬さんとのタッグはいかがでしたか。

 以前は、こういうふうにやりたい、こういうふうにやってほしいということを、もう少しお互いに話し合いながら作っていました。でも今回は、今までのそういった積み重ねに加えて、長瀬くんの役者としての成長もあって、僕の指示に対する反応が早くなっている気がしました。

-今回は赤鬼キラーKの他、生前の姿である近藤という役も演じていらっしゃいますが。

 近藤さんという、思ったことを口にできないナイーブな役を初めてやってもらったんですけど、見たことがない長瀬くんの表情が見られました。やったことがない役をやると、まだこんなに新鮮に見えるということが分かって、すごく頼もしかったです。

-宮藤&長瀬コンビの新境地でしょうか。

 そうですね。これから先も、僕は書いて演出するだけですけど、長瀬くんは年齢的に今、30代後半ですが、40、50と年を重ねていくと、演じる役も変わってくるはずです。その時、長瀬くんと僕が一緒に仕事をする機会があれば、例えば父親とか犯罪者とか、いろいろな役を演じてもらえるんじゃないでしょうか。

-もう1人の主人公・大助役の神木隆之介さんの印象は?

 神木くんは、黙っていても雰囲気があって、ナイーブな若者をやってもらった時に、すごく深みが出る役者さんです。今回はチャラい高校生をやってもらいましたが、本人はすごく真面目で、自分とはかけ離れた役でも喜んで演じてくれるので、他では絶対見られない神木くんが見られると思います。

-宮藤監督にとって4作目となるこの映画は、ご自身にとってどんな作品でしょうか。

 前作の『中学生円山』は、すごく好きな作品で、自分の宝物になると思って作ったんですけど、それだけではこの先、映画を作っていけないと感じたんです。そこで、定期的に映画を撮り続けようとした時に、自分がやりたいことを変えずに、より多くの人に見てもらうためにはどうしたらいいんだろうということを今回は考えました。なおかつ、僕の映画にお客さんが何を期待しているんだろうということを初めて客観的に意識しました。

-その結果どうなりましたか。

 お客さんが求めていて僕もやりたいのは、やっぱり気取っていない突き抜けた笑いで、見終わった後にスカッと爽快な気持ちになれるコメディーだろうという結論になりました。だから、やりたいことをやるのはもちろんですけど、それをファン以外の人、初めて僕の作品に触れる人にも楽しんでもらえるように間口を広げるというのが、今回の自分にとってのテーマでした。

-そういった意味で、過去の3作とは違っていると?

 そうです。だから今、もし僕の作品に興味を持ってくれる人がいたら、まずこの映画から見てほしいです。それは最新作だからということではなく、やりたいことをすごく分かりやすく、お客さんがこの映画のルールをちゃんと理解して、楽しんでもらえるように作れたという実感があるので。

-地獄の場面はCGではなくセットで撮影されていますね。

 地獄って、誰も見たことはないけど、子どものころから頭の中では想像しているじゃないですか。でも、その地獄はCGじゃないだろうと。閉じ込められている気持ち悪さとか、暑苦しさがあった方がいいだろうと考えてセットにしました。

-一つのセットを作り替えながら撮影したそうですが。

 スタジオの広さの問題で、セットを何個も作るわけにはいかないので、美術の桑島(十和子)さんと相談しました。ある時は地獄の釜をここに置いて、後でそこを田んぼにして…とか、一つのセットを作り変えれば幾つかの場所に見せられるんじゃないかということで、舞台装置のような感覚で作ってもらいました。その方が、誰も見たことがない映画になって、さらに皆さんが想像する地獄に一番近いものになるだろうと思ったので。

-この映画に込めた思いとはなんでしょう。

 僕は、死ぬことが終わりじゃないっていう映画を作りたかったんです。死んだ人が天国や地獄に行った後、もしかしたらその辺に犬とかインコの姿でいるかもしれないって考えると、自分が死ぬのも怖くなくなるような気がしたし。みんなが思っている「死ぬ」とか「生きる」ということを少し変えただけで、こんなに変わるんだっていうことをやりたかったんですよ。

-最後にDVDをご覧になる皆さんにメッセージを。

 初めて見るときは1人でじっくり見ると思いますが、2回目以降は、大勢でいる時になんとなく流しておいて、会話がなくなったらこの映画を見る、みたいな見方もオススメです。映画としての見た目が完全に他の作品と違うので、入り込んで見なくても「斬新だな」って感じてもらえるのではないでしょうか。テーマパークみたいな地獄になっているので、それに乗っかって楽しんでほしいです。

(取材・文/井上健一)