NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」で、主人公・井伊直虎(柴咲コウ)の母・千賀を演じるのは、連続テレビ小説「ごちそうさん」(13)でも主人公の母親を演じた財前直見。自身も一児の母親である彼女が、幼少期の直虎=おとわの成長を見守り、導いていく千賀という役に込めた思いを語った。
-千賀という役をどのように捉えていらっしゃいますか。
台本を読むと、殿(直虎の父・直盛=杉本哲太)がおとわ(後の直虎=新井美羽)に対してすごく甘いんです(笑)。なので、必然的に母は強くいなければいけない、という感じになっています。1人の母親として共感できる部分もありますが、戦国時代なので今より遥かに芯が強くないといけなかったでしょうね。父親よりも子どもと接することが多く、しつけに関しても厳しいのですが、“怒る”のではなく“叱る”ということを心掛けています。
-財前さんご自身も母親でいらっしゃいますが、千賀と共通する部分はありますか。
千賀がおとわに「許しておくれ」と謝る場面がありますが、親だからといって上からだけではなく、間違えた時には子どもに対しても「ごめんなさい」と言うことが大事だと私も思っています。子どもだけの責任にしないで「自分も同じ責任を負っていますよ」と伝えること、「自分も間違えることがある」と言ってあげることも母親の愛情だと思います。
-主人公の母親という役を演じていて、思うことはありますか。
炊事や教育、家計のやりくりなどいろいろなことを母親がやりますよね。普通のご家庭でも家の中のことを仕切っているのは、母親が多いのではないでしょうか。そういうことを家族全員が理解してくれたら、すごくいい切り盛りができると思います。千賀も、乳母のたけ(梅沢昌代)がいるので、おとわにそれほど多くは接していませんが、なだめたり、叱ったり、おだてたりしながら、うまく進むべき方向に導いていきます。母親とはそういうものなのかなという気がしています。
-おとわを演じる新井美羽ちゃんの印象は?
とにかくかわいらしいですね。髪の毛を切ってみたり、丸刈りになってみたり…。動物みたいにかわいらしくて、見ていて飽きないです。守ってあげたくなりました(笑)。
-直虎役の柴咲コウさんにはどのような印象をお持ちですか。
最初にご一緒したのはロケで、馬上にいる姿だったのですが、それがすごく神々しく見えました。本当は姫であるにもかかわらず、やっぱり“殿”だと思いました。
-夫の直盛を演じる杉本哲太さんとの共演はいかがですか。
同い年なので、同級生みたいな感覚で話をしています。夫婦としてのお芝居は、甘い父親と厳しい母親というポジションが決まっているので、すごくやりやすいです。
-撮影現場の様子は。
撮影に入る前、浜松にある井伊家の菩提寺の龍潭寺にお墓参りをさせていただきました。その時に実際の井伊谷の雰囲気を感じることができたのですが、その後に岩手に作られたオープンセットに行ったら、タイムスリップしたような気分になりました。セットもとても丁寧に作られていて見応えがあります。前田吟さんや苅谷俊介さん、小林薫さんなど他の共演者の方々もすごくいい方で、いろいろな話をしながら、とても楽しくやっています。
-財前さんは「ごちそうさん」でも脚本家の森下佳子さんとお仕事をされていますが、森下さんの脚本の面白さは何だと思いますか。
「ごちそうさん」もそうですが、森下さんの脚本にはいつも“愛”、つまり人を思いやる気持ちがあふれているんですよね。そこにふっと笑う瞬間があり、グッと泣かせるところもあり…。今回もそんな面白さがたくさん詰まっています。
-今までの撮影で印象に残っているのは、どんな場面でしょう。
おとわが出家した時、一度その日のうちに帰ってきてしまうんです。そこでたけが与えたご飯をかわいらしく食べている姿を見て、本当はすごくうれしいはずなのに、あえて厳しく接する。そこには、母親として先を見据えて、そういう行動をしなきゃいけないという思いが込められています。その後、直盛たちが帰って来ると本音を口にすることになるのですが、そのくだりは、千賀の思いが伝わるいいシーンです。
-財前さんが考える直虎という人物の魅力は何でしょう。
私は以前、大河ドラマ「義経」(05)で、源頼朝の妻・北条政子を演じたことがあります。そんなところから、彼女に対する憧れもあるのですが、今の世の中で、彼女が知事のような地位についたとしたら、すごく上から目線になると思うんです。直虎はそう人ではなくて、一家のお母さんがたまたま姫になって、殿になったような人です。現代でも、そういう庶民のことが分かる人が世の中を動かしてくれたら、みんなのためになることをやってくれるような気がします。
-立場が弱い人たちの気持ちが分かるということでしょうか。
そうですね。だから井伊家は滅びなかったと思うんです。そういう行動を取っていたからこそ、周りが守ってくれたのではないでしょうか。
(取材・文/井上健一)