Chaccoさんのお父さんの“化け物”エピソード
――ところで、Chaccoさんのお父さんの場合は、どんな“化け物”エピソードがありますか?
Chacco ウチの場合は菊池さんのところと違って内弁慶だから、酔っぱらって外で迷惑をかけるというより、家の中で全部吐き出すって感じだったんです。
例えば、夜中に金属バットを持って、「俺なんか死ねばいいんだろ~!」って大声で叫びながらお風呂の窓ガラスを思いっきりバーンって割ったりするんです。
それで父側の祖母と私、母と姉がヤバいぞ~って戸惑いながら駆けつけるんですけど、割り切ったお父さんはバットをカランと置いて、ショットバーに行き、残された私たちが破片まみれの中で「は~、これ、どうするんだ?」って呆然とするしかなくて。
で、よく見たら、お祖母ちゃんは飛んできた破片で軽く血を流していたりするんですよ。それに、うちは飲食店をやっていたから、お客さんと喧嘩することもよくありました。
お酒をよく飲む人にいちゃもんをつけて「ウチは飲み屋じゃね~んだ。めしを頼め! 」って怒鳴るから、お客さんも「こっちは客だぞ!」ってキレて取っ組み合いになった挙句、店のドアのガラスが全部バーンと割れるという。そんな感じで頻繁にガラスが割れるし、あっ、また、ここのガラス入れ替えたなっていうのが分かるぐらい、割れ物が多い家だったんです(笑)。
菊池 「割れ物が多い」という言葉だけでは片づけられないですよ! 本当に命の危険があった家ですね。
Chacco そうです、そうです。誰がいつ発狂して包丁を振り回したり、一家心中をする決意をするのか分からないという不安がずっとあったので、自分の命を守るために、一刻も早く、家を出なきゃいけないと常々思っていました。
だから、さっきも言ったように、両親を介護する気持ちはないし、逆に、姉が先に家を出て、祖母が亡くなり、両親と私だけになった18、9歳のときは本当に辛くて、それでひとり暮しを始めたんです。
菊池 「まっとうな親になりたい」でも、 誰かが死ぬことを心配するシーンが多いですよね。
いまのお話を聞いて、そのあたりのことがちょっと分かったような気がしました。
Chacco 嬉しいです。私は一度流産もしていますし、いまは薬のおかげで走ったり、遊んだりできる普通の生活を送っていますけど、若いときに脳梗塞や心筋梗塞の引き金にもなる血栓症を患ったので。
菊池 そうだったんですね。
Chacco だから、いまは逆に、いつも死ぬ気で生きている感じです(笑)。
菊池 いまはいい方向、頑張る方向に変わってよかったですね(笑)。
映画の1億倍ぐらい酷いことを言ってます(笑)
――映画の話にまた戻りますけど、劇中のサキは死ぬ間際のお父さんに「惜しまれて死んでいくと思わないで! 私に恨まれて死ぬんだってちゃんと知って死んで!」って言いますけれど、あれも菊池さんが実際に言ったことなんですよね。
菊池 あれの1億倍ぐらい酷いことを言ってます(笑)。
――あの言葉を発するきっかけは何だったんですか?
菊池 父は小っちゃい会社を経営していたんですけど、そっちの方で1000万以上の借金があったんですね。
で、「なんじゃ、こりゃ~」と言って、私が会社に入り、弁護士にかけ合って、借金を返済する算段をしているときに、父が新たに100万円でローンを組んだんですよ。
それが、もう本当に意味が分からなくて(笑)。そのときはもうお酒は飲んでなかったけれど、末期ガンで長くは働けないわけだから、払いきれないし、私が支払うのをあてにしてローンを組んだわけじゃないですか。
それこそ、私のせいではなく、父がやったことの尻拭いで私がどれだたけ苦労しているのか分かっていないから、お金のこと以上に腹が立ったんです。
Chacco それはキレて当然ですね。
菊池 でも、ローンのことがわかった時は、 会社にほかの人もいたので、その場ではキレずに我慢したんです。
だけど、私が運転して家まで帰る車中でも父はめちゃくちゃ呑気で。
こっちはイライラしてるのに、カーナビに対して「 お父さんの方が道知ってます~。ナビより詳しいです~」ってヘラヘラ言ってるから、家に帰って、妹に状況を説明している途中でキレたんです。
――お父さんは何でそんな人なんですかね?
菊池 本当、何でそういう人なんでしょうね~。意味が分からない。
――でも、会社を経営されていたわけだから、ちゃんとした一面もあるんですよね。
菊池 まあ、そうですね。景気が悪くなって、中小企業はどんどん大変になっていったし、父の代わりに私がいろいろやるようになったときに周りの人から「これぐらいの規模の会社だと、お金を借りて回していくのは普通だからね」という話も聞いたので、ただの無鉄砲ではなかったのかもしれないです。
でも、70歳目前の人間が100万借りることはないでしょ、絶対に返せないでしょって思うし、そこはやっぱりまともじゃないですよね。
――だから、あの言葉も真に迫っているんですね。
菊池 本音です、本音です。でも、私があの罵詈雑言を吐いた翌日に父は気を失うんですよ。
あのときは、このタイミングを狙ったように病気を悪化させるのはやめてよ! 死ぬのはまだですよ~!って思いましたね(笑)。
オマエの物は俺のもの、俺の借金はオマエのものみたいな(笑)
――映画では困っている友だちにお金を貸していたというエピソードもありましたが……。
菊池 あんないい話はなかったです。友だちには確かにお金をいっぱい貸していたけれど、返してもらえてないお金が400万ぐらいあって。
外面はめっちゃいいんですよ。
みんなにたかられて、奢ってばっかりいたから、死んだ後は可哀想だったな~と思いましたけど、私には借金を残すのに、人には貸しているっていうのはいまでも理解できません。
Chacco それは、菊池さんに甘えていたってことですかね?
菊池 甘えじゃなく、たぶん父にとって私は自分の所有物だから、自分がやったことの後始末を私がやるのは当然と思っていたんじゃないですかね。
Chacco そこまでの域の関係性だったんですね。
菊池 オマエの物は俺のもの、俺の借金はオマエのものみたいな(笑)。
Chacco え~!
――お父さんは妹さんのことはどう思っていたんですか?
菊池 妹のことはすごく可愛がっていたんですよね。
私が本当に妻の役割をしていて、妹が子供みたいな感じと言うか、ギャーギャー怒っていた私と違い、妹は家族をまとめるためにピエロ役をやってくれていました。
父も「お父さん、お父さん」って甘える妹は可愛かったと思います。
Chacco やっぱりそうですか。私は漫画でも映画でも、妹さんが自分がいま何をすべきかを冷静に判断して、家族全体を見ながら動かれているなという印象を持ったんです。
もちろん菊池さんに感情移入しながら読んだり、観たりしていたんですけど、お姉ちゃんが頑張っているし、私は道化を演じた方が家の中が穏やかになるだろうという気持ちで対処している妹さんにも共感するところが多かったです。
菊池 そこはそういう家庭で育った仲間だから分かることで、普通の家の人はあまりそこまで分かってくれない(笑)。
Chacco えっ、そうですか?(笑)
菊池 ええ、実際にそうだと思います。
Chacco 妹さん、私が家族を繋ぎ止めないといけないというところでかなり頑張っているなと勝手に思っていたんですけど……。