映画を観て、どのシーンで泣かれたんですか?

『酔うと化け物になる父がつらい』3月6日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー 配給:ファントム・フィルム ©菊池真理子/秋田書店 ©2019 映画「酔うと化け物になる父がつらい」製作委員会

――資料のインタビューで「映画を観て、泣いてしまった」って言われてますけど、どのシーンで泣かれたんですか?

菊池 その時々の自分を思い出していろんなところで泣きましたけど、涙が止まらなかったのは最後のシーンです。

片桐健滋監督(『ルームロンダリング』)といちばん最初にお会いしたときに、「お父さんがいま生きていたら、何て答えて欲しいですか?」って聞かれたんですよね。

そのときに私が咄嗟に答えた言葉が、クライマックスの意外なところに書かれていて。あれを見たときに、いろいろなことを思い出して悲しみがまた込み上げてきたんですけど、同時に、あの言葉を言ってもらえたサキが羨ましくて泣いたんです。

Chacco 羨まし泣きってありますよね。

菊池 生前の父に最後に詰め寄ったときもあの言葉は出てきませんでしたからね。

Chacco 私もヒロインの名前を原作のマリちゃんからサキちゃんに変えている時点で、映画はまた違う見せ方をするんだろうなと思ってワクワクしたし、原作がハッピーエンドでもバッドエンディングでもない、その間の感情を汲み取って浄化させる綺麗な終わり方だったから、映画がどんなラストになるのか気になって仕方がなかったですね。

映画のラストはいかがでした?

菊池 映画のラストはいかがでした?

Chacco 子供のころのサキちゃんが河原で野球をやっているお父さんに飛びつくシーンが伏線のように冒頭にあったから、映画は、お酒を飲んでいろいろ迷惑をかけたお父さんだけど、小さいころは好きだったし、やっぱり嫌いになれない、みたいな美しい終わり方をするのかなと思っていたんです。

そしたら、その後にサキちゃんの本音が吐露されたから、その瞬間、勝った~! そうなんだよ~! と思って(笑)。

アルコール依存症の人間を家族に持つ人間は、そんな綺麗事じゃ到底納得しないだろうって思いもあったので、あの終わり方は嬉しかったですね。

菊池さんがいちばんお父さんに対して“化け物”だと思ったエピソードは?

『酔うと化け物になる父がつらい』3月6日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー 配給:ファントム・フィルム ©菊池真理子/秋田書店 ©2019 映画「酔うと化け物になる父がつらい」製作委員会

――映画にも酔っ払ったお父さんの“化け物”エピソードがいっぱい出てきますけど、菊池さんがいちばん“化け物”だと思ったエピソードは?

菊池 映画には出てこないけれど、いちばんはやっぱり、漫画に描いた自分の車を燃やしちゃったやつですね。

Chacco あれ、私、好きです(笑)。好きって言うのもヘンですけど……。

菊池 父は温かいから車の中で寝ちゃっていて、救急隊員の方が「大丈夫ですか~?」って起こしたときも「気持ちよく寝てたのに起こしやがって!」って怒るからバカだな~と思って。

Chacco あれ、自宅の真ん前ですよね?

菊池 真ん前です。あのときは本当に愚かだな~と思ったんですけど、車でけっこう事故を起こしているんですよね。

――人も撥ねたんでしたっけ?

菊池 人はギリギリ撥ねてない。

Chacco ギリギリ撥ねてない?

菊池 うん。「昨日、お父さんに事故られた者ですけど…」っていう電話がかかってきて、すごく怖い思いをしたことは1回あるんですけど、たぶん撥ねてはいない。

ただ、ウチの父はけっこう警察とカーチェイスをしているんですよ。

Chacco スゴい!

菊池 スピード違反の車が3台一緒に走っていたときに、真ん中を走っていた父だけが捕まったことがあったんですね。

父はそのときももちろんお酒を飲んでいたから、捕まったときに警察官に「何で前後の車は捕まえないんだ!?」ってブチ切れて、パトカーの上で飛び跳ねるというバカなことをやって(笑)。

父は運転が上手かったから、次に警察に追われたときはどこかの駐車場にサッと入り、電気をパッと消してやり過ごしたときには勝った~!って思ったらしいんです。

そういうエピソードを楽しそうに話すので、私も面白いな~と思いながら聞いていたのを覚えています。

Chacco お父さんのネタがまだまだいっぱいあるんですね。ビックリしました。

菊池 そうですね。ただ、講演で車の事故の話をしたときに、その会場にご家族を飲酒運転の事故で亡くされた方がいらしたこと があって。

私ももちろん面白い話として紹介したわけではないですけど、そのときは家族以外にも被害者がいることを痛感しました。

「まともじゃないのはどっちだ!?」

――お父さんから「まともじゃないのはどっちだ!?」って切り返されるシーンが原作にも映画にもありますが、あれを実際に言われたときはどう思いました?

菊池 あのときは自分もまともじゃないという自覚があったんですよ。バイトはしてたけど、高校を卒業した後、進学も就職もしないで、毎晩フラフラ夜遊びしてましたから。

――でも、大なり小なり、若いときはみんなそういう生活を送りますよね。

菊池 高校生や大学生がやっているならまだいいんですけど、あのときの私は高校生でも大学生でもなかったですからね。

Chacco 私も高校生でも大学生でもない時期、同じように遊んでいたから、あれを漫画で見たときに、自分も言われた、言われたって思いました。

「お父さんが悪い」ってことは1回も言わずにここまで来ました。

菊池 お父さんと喧嘩もしました?

Chacco いや、喧嘩は絶対にしないって決めていたので、していません。

菊池 じゃあ、一方的に言われるの?

Chacco 一方的に言われると言うか、ニヤニヤ笑いながら嫌味をポンって言われたときに、こっちがちょっとでも怒ったら逆ギレされるパターンをもう分かっているので、親に直接「あなたたちはどうかしている」とか「お父さんが悪い」ってことは1回も言わずにここまで来ました。

たぶんこれからも言わないし、死ぬまで言いません。

酷い状況を乗り越えるために親と向き合う方法をとる人もいらっしゃるだろうし、それが功を奏すこともあると思いますけど、ウチの親の場合は「ゴメンな」っていう口先だけの言葉は100回ぐらい聞いてますから、無意味なんですよ。

――口では「ゴメンな」って言うんですね。

Chacco 口では言います。でも、そう口で言いながら高い浄水器を買ってきたりするんですよ。

でも、そこを突っついたらウチの父親も母親も精神が強くないから、死なれるかもしれないし、そうなったら、私はなぜあのときあんなことを言ったんだ? という罪悪感を一生背負って生きなければいけない。

そんな不安にかられたときに、何も言わないから私のせいではない、という距離の置き方をするのがいちばんいいと思ったんです。

菊池 それが正解だと思います!こういう親とまともに対決して、 うまくいく人は100万人にひとりぐらいじゃないですかね。

向き合って変化を起こす親って、ツチノコレベルの奇跡かも。

Chacco ツチノコってスゴい(笑)、ネッシーを見たっていうのと同じレベルってことですものね。

菊池 親が自分からカウンセリングに行ったり、相談所に行って変わっていくパターンはあるかもしれないけれど、子供が“変わって欲しい”と望んでもそれは難しいですよ。

別に親子じゃなくても、大人になった人間同士があまり変わらないのと一緒で、たぶん変わらない。だったら、自分が気持ちよく過ごせる方法を選んだ方が私は正解だと思います。

Chacco そう言っていただいて、ちょっとホッとしました。