高崎:私、EDMやハウスも好きなんですけど、大箱のクラブのピークタイムでとにかく踊らせるための音楽って、お決まりの展開があるんですよね。BPMはこれぐらい、ドロップがあって、みたいな。

今年はトロピカルハウスも流行ったりと、近年はメロディ重視への回帰みたいな傾向もありますが、とにかく踊らせる、客を動かすってことを重視すると、「新しい音楽」を生み出すのは難しいのかも。

吉田:その流れに付け加えると、アイドルのBiSHはリフトを禁止にしたんですよね。リフトが出たらそこですぐにライブを終了するという警告付きで、実際にそれで数分でライブが終わったこともあったんです。

藤谷:それはすごい、強制終了ですね。その措置には反発もすごいのでは。

吉田:古参がそれで一気に上がって、でも動員は増えて野音ワンマンも成功して。地下アイドルが「地上」に出る段階として、それが必要だったのかもしれない。

藤谷:BiSHに関しては 強制措置で1000キャパ の呪縛から開放されたということでしょうか。それを聞いて思い出したのが、少し前に己龍がライブのノリを変えようという動きが出たんですね。これはもともとバンドから動画などで提示していたルールの改正だったため、一部ファンから反発は出ていたりしていました。

今からする話は己龍ではなく限りなく一般論の話になるんですが、いまステージの上に立っているミュージシャン自身がファン、リスナーだったころの「90年代のギチギチぎゅうぎゅうのオールスタンディングライブフロア」を目指しても、今はバンドによっては固定の振り付けがある、扇子もある、ペンライトもある、その上でぎゅうぎゅうを目指しましょう、となると扇子やペンライトは素材が堅いから、ちょっと危ないというのもあるんじゃないのって正直思うんですよ。

もちろんフロア前方に余裕があるのに、出入り口のドアが閉まらないレベルで後ろばっかり詰まっちゃう状況は避けたいですけど。

ちなみにBiSH古参たちはその後どうなったんですか?

吉田:おやすみホログラムやぜんぶ君のせいだ。みたいな、よりノリの激しいグループに流れていくんですけど、BiSH自体はあきらかに成功しているんですよね。

藤谷:バンド主導のノリの変革って難しいと思うんですけど、そういう話を聞くと、己龍も今後「その選択が正しかったね」って言える日が来るのかもしれない。

まあフロアのノリって暴力行為レベルのもの以外は、誰が正しいというものでもなく、時間をかけて落とし所を見つけるしかないんですけども。

「VISUAL JAPAN SUMMIT 2016」どうだった?

吉田: 最終日にLUNA SEAが(時間を)押して己龍が巻いたのにXがさらに押したじゃないですか。「90年代」と「10年代」のV系の違いを象徴してるなって思いました(笑)。「10年代」って「真面目」なんですよね、DEZERTもなんだかんだいって時間は守りますし。

藤谷:そもそも論として「すごく遅れる」方がイレギュラーなんですよ(笑)。

高崎:私だってX JAPANのことは大好きですし、アルバムめちゃくちゃ持ってますし、すごいのは十分知ってますけど、大人なんだからちゃんとして欲しいって思います(笑)。

吉田:でも、そういう話を聴くと「また伝説を作った」って嬉しくなっちゃうんですよ。

藤谷:色んな意味で楽しかったですし、それこそ10年代を代表する己龍やR指定が大御所に挟まれても存在感を出していたのが頼もしかったです。それにきょうびのフェスでよくある「次はメインステージだ!」宣言をあんなに若手がいる中で、R指定だけがやっていたのも面白かったです。

吉田:ファンの忠誠心というか、どんなに無茶な時間でもついていくのがファンの証というのが、90年代世代のポリシーみたいなところがあるじゃないですか。

藤谷:「ヴィジュアル系」の名のもとに様々な世代が集結したので、フロアもちょっとした異文化コミュニケーションがみえたのも面白かったです。

吉田:そう考えると年末にあった「D'ER≠gari 2016 feat.DEZERT」(※D’ERLANGER、cali≠gari、DEZERTが共演し、東名阪をまわったイベント)は、世代のバランスがとれて良い図式だったのかもしれませんね。

高崎:今年は「Party Zoo」もありましたし。

藤谷:昨年から続いているイベント「COMMUNE」も含め、規模の大小はあっても2010年代に入って世代をつなぐようなイベントが増えて、ようやくV系という「ジャンル」に誇り?というと言いすぎかもしれませんが、世代を通しての何かを掲げることができるようになったのかもしれない。

吉田:VJSは今思うとHi-STANDARD主催の「AIR JAM」みたいですよね。あれも最後は千葉マリンスタジアムだったのに、出演バンドの次のライブ告知が下北シェルターみたいな(笑)。3万人に向かって200キャパの宣伝をしているという。

藤谷:それはたしかにその通りかもしれません(笑)。MUCCの逹瑯さんも3日目のぞんび出演前の前説MCで「ここだけAREAみたい」って言ってましたね(笑)。若手にはいい意味で刺激になったんじゃないでしょうか。

今のバンドは出演時間20、30分のイベントに慣れてるというか、短時間でポテンシャルを発揮できるのが強みだと思うんです。それに、普段なら中堅でやってるようなNoGoDや摩天楼オペラも若手と同じくらい全力投球していたという印象がありました。

高崎:若手の中ではゴシップが良かったと思います。「高田馬場AREAでやってること100%の力で幕張でやる!」って誠実な姿勢を評価したいです。

【ゴシップの2016年】
1月にシングル『東京スキャンダル』、2月にベストアルバム『脳味噌回転愚流愚流地獄-黒歴史盤-』、3月にミニアルバム『百舌』、5月に『インモラル鬼畜㊙痛震講座』、6月に『CHEMICAL FILTH』、7月に『エロトピアリ』とシングルを3ヶ月連続リリースし、11月にシングル『天上天下唯我独唱』をリリースとハイペースな活動を展開。

藤谷:いい意味でいつも通りできて、それがよかった。

VJSのステージでMCで逹瑯さんが「V系がいつからかっこ悪いと言われるようになったんだろう。”好きな音楽はV系です”とみんなが胸を張って言えるように、俺たちが格好よくならないと、という主旨のことを話していたじゃないですか。

さっきの「誇りを持てるジャンル」の話につながってくるんですけど、90年代のブームもその後の冬の時代もネオヴィジュアル系ブームもみてるから言える説得力がありました。

吉田:MUCCが2017年で20周年ですよね? 最近、色んな若手バンドから、MUCCのメンバーからアドバイスを受けたという話を聞くんですよ。良いつなぎ役になってるのかもしれません。

藤谷:対一般世間的にすごいヒット曲があるわけでもないけれど、シーンに欠かせないバンドですよね。

吉田:そういう意味では、MUCCの評価が改めて高まった年なのかも?

高崎:飲み会の良い幹事みたいな存在のバンドなんじゃないですかね(笑)。知り合いも多い、店も知ってる、裾野が広い、みたいな。

藤谷:上手いことを(笑)。