日本の料理には主材料を引き立てるために他の食材は脇役に徹したものが多いが、韓国には主材料に他の材料を掛け合わせて複合味を楽しむ料理が多い。
その代表がビビンパだが、今回取り上げる肉を使った鍋物を見てもそれは明らかで、肉×魚介、肉×野菜、肉×漢方など、そのカオス感は日本の鍋物の比ではない。
タンナクチ・ジョンゴル(地鶏と手長タコの鍋) ソウル
鶏とタコ、主役はどっち? と言いたくなる鍋だ。
この店の基本メニューはタッコムタン(鶏煮込みスープ)なので、鶏に分がありそうだが、なんでも組み合わせる韓国料理でも鶏とタコはちょっと珍しい。
さっきまで生きていたと思われる手長ダコは、鶏胸肉とともに最初から鍋に入って出てくる。サッと熱が通ると店員さんがトングでつまみ上げ、目の前でバチバチとハサミで切ってくれる。あまりの速さにタコに同情するヒマもない。
放し飼いで適度に運動している地鶏の肉は、ブロイラーのものと違って、ほどよい歯ごたえがあり、肉を食べているという満足感がある。韓国人は噛む味を大事にする民族なのだ。
スープはコチュジャン系だが、辛過ぎないので鶏の旨味がしっかり感じられる。殉職したタコがいいダシとなり、スープにさらなる深みを与えてくれる。鶏のダシを吸ったタコももちろん旨い。焼酎がほしくなる。
鶏やタコをあらかた食べ終え、いい感じに煮込まれたスープの旨味は麺(ククス)とともに味わい尽くす。それでもまだスープが残ったら、餅(トッ)を投入してもいいが、それは食べ過ぎというものである。
ファンピョンチッ
中区仁峴洞2街135-13(ホテルPJの斜め前)TEL:02-2266-6875
11:00~22:00 公休日休
プデチゲ(ハムやソーセージなどの寄せ鍋) 議政府
プデチゲ(部隊鍋=在韓米軍の放出品で作った鍋)という微妙な出自を隠そうと、その発祥地名を冠し、「議政府(ウィジョンブ)名物チゲ」と名乗っているが、プデチゲはプデチゲだ。
特別な看板料理をもたない大衆食堂のメニューにもあるほど、ありふれた鍋物だが、ソウル中心部から電車で小一時間で行ける議政府には専門店が数軒集まっている。
元祖といわれている「オデン食堂」のプデチゲには、ハム(ポークランチョンミート)、ソーセージ、ひき肉、春雨、豆腐、キムチなどが入っている。
そこいらのプテチゲとの違いはスープの味。発酵の進んだキムチが使われているため、すっきりした辛酸っぱさが特徴だ。プデチゲにはたいていごはんが添えられるが、追加でインスタントラーメンの乾麺を頼み、いっしょに煮こむことが多い。
筆者はラードのコクがスープに加わるのが好きなので、よくハムを追加する。とろったした食感が白いごはんと合うのだ。出自といい、闇鍋的なビジュアルといい、これぞ韓国の庶民料理と言いたいプデチゲ。ぜひ本場で試してほしい。
オデン食堂
京畿道議政府市議政府洞220-58 TEL: 031-842-0423
7:00~21:00 無休
カムジャタン(豚の背骨とジャガイモの鍋) ソウル
直訳するとジャガイモ鍋だが、主役は豚の背骨とそこに付いた肉。これらを唐辛子やショウガ、ニンニク、長ネギなどとともに長時間煮込んだ辛い鍋だ。匂い消しにエゴマの葉っぱを大量に入れることが多い。
カムジャタンといえばソジュ(韓国焼酎)と言うくらい、酒の友というイメージが強い。庶民的な繁華街に行けばたいてい看板に「감자탕(カムジャタン)」と大書きされた店が見つかる。夜、酔客でにぎわっていれば外れはない。
総じてせっかちなことで知られる私たち韓国人だが、日本人と比べるとかなり乏しい根気は豚の背骨の溝に詰まった肉をほじくり出すことで使い果たされる。
残ったスープにごはんやキムチ、海苔などを入れてチャーハンにすることも多い。専門店ではランチ向きのメニューとして、1人用のカムジャタンをピョダギ・ヘジャンクッの名前で出している。