さて、今回の名ゼリフをひろったのは、近所のスタンドバーでした。
ひとりで飲んでいたら、隣で同じくひとり酒をしていた男子が声をかけてきました。
ギンガムチェックの青シャツがまあまあさわやかな30代。

「じつはボク今、脱走中なんです…」
何から脱走しているのかしらと私、胸をときめかせました。

「駅前の居酒屋チェーンで会社の課の飲み会なんですけどね」
てっきりおっかない部長か次長に絡まれて逃げて来たのだと思いました。
違いました。

「最近出来た後輩クンがボクのザ・鬼門なわけですヨ」
ギンガム男子は一見、人当たりのよいマイルドな風貌です。
しかし話すうちに、じょじょにマイルドはビター風味に変わってきました。
課の中にこれまで男はオンリーワン。
毎週水曜日は会議室でお弁当交換会なぞがあり、女子社員に混じって、
ウインナ配ったり卵焼きのレシピ交換に参加するそうです。

「水曜日は朝から軽いパニック。だから、男子が入って来るって知ってわーいわーいって喜んでたわけです」
なるほどなるほど。
「それに後輩クンは『飲むの超好きっすよ。最近悶々としてるんで飲み行きましょうよ』
とかうれしいこと言ってくれるわけ。だけど、絶対自分から誘ってこないわけ。
ボクとしては男のさし飲みとかしたいわけよね」

女子に囲まれる生活が長いせいか、テンションが高まるにしたがいおねえ言葉になるギンガム男子。
かつ、彼が許せないのは…、
「後輩クン、酒好きだっていうわりにみんなが『中生!』ってゆってるのに
キャツだけは毎回、カシスウーロン頼むわけ!」
おっと、「後輩クン」が「キャツ」に変わりました。