ふとギンガム男子の携帯が鳴りました。宴席の同僚からの様子。
「まだ後輩クンいるみたいです。頑張っちゃってるみたいです、キャツ」
じゃあ、まだ戻れませんねと言おうと思ったら、
「…あの僕、やっぱ戻りますわ」と言ってギンガム男子はそそくさ会計をしました。
「たぶんキャツ一人で盛り上げ役、やってるんで」
あ、えっ、戻るんだ。私はおもしろうれしくなりイッテラッシャイと見送りました。

「そうだ。僕、家具の通販みたいな仕事してるんです。言ってくれたら、
社割りききますんで、ベッドでもカーテンでもなんなりとご用命を一つ」

ギンガム男子は最終的に営業マンの顔に戻って名刺を私に渡すと、
ネオンのむこうに消えていきました。

なんだか茶目っ気あふれるラストシーンではありませんか。

世のセンパイに必要なのは男気でも姉御肌でもありません。
ギンガム男子のような「プリティさ」です。
プリティさとは、人間汁(にんげんじる)がうっかりはみでちゃうこと。
さんざんキャツよばわりしといてやっぱり後輩が心配になっちゃう、うっかりっぷり。
逃げといてのこのこ戻ってくる、うっかりっぷり。
おそらく、ギンガム男子はこのあと「あー戻ってきた~」と爆笑と拍手で迎えられたでしょう。
これはこれでかなりおいしい。
センパイ面して「注文ブザー押せよ」とおこっていたら台無しでした。
おこれば後輩クンはいうこと以後、聞くかもしれませんが、
それは「めんどくせーから」。
でもいったん「センパイってもしやプリティ?」と思わせたら、後輩は以後、
彼に新たなプリティさを発見しようとするでしょう。
ご縁はそこから。
山積みの残業をセンパイがかかえたとして。
おっかないから手伝う後輩より、なんかセンパイひとりでほっとけないから手伝います!
という後輩のが息は長いです。
プリティさをアピールしたら、あとは全力であまえまくる。
これでいきましょう。
また後輩諸君は、日々空気を読めだの体当たりで来いだの、理不尽な課題をぶつけられ
「この世で一番自分が不幸」みたいな気分になることもままありましょうが、
センパイたちは自分よりもプラス8%お気の毒さま。
そう思えばオフィスには結構「oh!プリティ~」な景色が見えてくるはず。
まずはウインナランチからはじめませう。

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文筆業。大阪府出身。日本大学芸術学部卒。趣味は町歩きと横丁さんぽ、全国の妖怪めぐり。著書に、エッセイ集「にんげんラブラブ交差点」、「愛される酔っぱらいになるための99の方法〜読みキャベ」(交通新聞社)、「東京★千円で酔える店」(メディアファクトリー)など。「散歩の達人」、「旅の手帖」、「東京人」で執筆。共同通信社連載「つぶやき酒場deep」を連載。