<愛しき中央線せんべろの旅>

吉祥寺の立ち飲み屋で隣り合わせた中年の手相占い師に、
「あッ、あんた腹上死の相が出てるよ」と元気よく言われたことがある。
家に帰って耳慣れないフクジョーシという言葉を調べてみた。

して静かにへこんだ。

高円寺で飲んでいて森本レオに会ったことがある。

「握手してください」と言ったら、あの声で「ふぉふぉ、いいですよぉ」と手を出した。
これといってファンでもなかったが、
以降「彼、案外いい人なんだから」と事情通気取りで自慢した。

荻窪で飲んでいたら、ものすごい「素」のねづっちがそばでホッピーをすすっていた。
蝶ネクタイはしてなかった。そっとしておいた。

西荻で飲んでいたら「ワタシ、韓国からキタヨ。友達ナリタイヨ!」と
相席した若い韓国人女子に声をかけられた。
私の中に眠るちいさなおっさんが調子に乗って焼き鳥をわけてあげた。
メアド交換もした。「今度マタ会いたいヨ!」と言われた。
けど連絡はなかった。

昼間中央線に乗っていたら、中年のオッチャンに「おっ?」と声をかけられた。
ので「あっ?」とこちらも対応した。
「そいじゃまた」とあいまいなあいさつをした。
互いにどこの飲み屋で会った誰かは思い出せないままだった。

不思議がいっぱい。出会いがいっぱいの中央線せんべろ酒場。

昔から、夢見る輩が暮らす中央線沿いは、千円で酔える店でないと長くはつづかない。
夢見る輩はだいたいくさい古着を着ててさみしがり。
いっぱしのクリエイター論など語らう仲間を探しながら、
ポケットの小銭を一所懸命数えて生きている。

「メジャーになりたきゃ中央線を出ろ」なんて言われても、
ぬるぬるのずるずるのこんないとしき酒場の出会いがある限り
一度住んだらたぶん離れられない。

ある日、「中央線だとお金がなくても生きてけるから、
まじめに働く気がなくなっちゃうんだよね~(ハート)」と語らいながら
チューハイを飲んでいたカップルに、
「ちょっと待てえ~ぃ、働かざるモノ飲むべからずだぜ~い?」と思わず隣から
カットインしたくなる私はもう、中央線汁にすっかりおかされてると認めざる得ない。

新宿に出たら「人見知り」のくせして、オレンジの電車に乗ったら
あっさり距離感なんてものを忘れ去る。

そんなあつかましさこそ中央線酒場のデンジャラスなおもろい罠なんである。

★愛しき中央線せんべろの旅
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