千円でべろべーろになれるせんべろ酒場。
今夜は少々へこむことがあったので、早々に仕事を切り上げて酒好き男子を飲みに誘った。
すると、「付き合ってもいいがどうしても唐揚げが食べたい」と言って譲らない。
私ごとだが、カツ丼と唐揚げ断ちをして間もなく二十年になる。
厳密にはどさくさにまぎれて一口か二口、合計八口くらいは食べてるとは思う。
だけど、己の意思で注文したこともなければ買ったことも断じていない。
なぜなら思春期の頃、カツ丼と唐揚げが好きすぎて、体がサイコロ型になったから。
人間、K点を越えて肥えると「丸」じゃなくて「四角」くなるんですよ、皆さん。
しかし、もういい加減解禁しちゃおうぜえ! ともう一人の悪い自分が囁きはじめていた。
我がテリトリーである中央線は荻窪の北口に、唐揚げの「鳥繁」を見つけたのがいけない。
「駅前商店街」と謳っているアーケードの中に唐揚げ屋があると気づいたのは数ヶ月前。
2年前からおじいちゃんが一人でひっそりと唐揚げを揚げ続けていたらしいのだが、
あまりにひっそりとしすぎていたため、地元民にも長らくスルーされていた。
改装を機に、若い兄貴が二人アーケードに響き渡る威勢でもって
「唐揚げいかがっすかー!!」と100万ドルの笑顔で客引きをするようになった。
100万ドルってどんくらいかわかんないけど。
荻窪の客引きと言えばキャバクラだ。
とにかくそれにも勝るとも劣らない凄まじいスマイルなのだ。
このアーケードは人通りが激しいわけではない。
うっかり前を通るたびに「唐揚げどうすか!」と声をかけられることにひるみながらも、
狭い一階カウンターには立ち飲みもできることをチェック済み(着席2席もあり)。
というわけで、20年ぶりの唐揚げと再会の夜と相成った。
トレーには、いい色に揚がった半身揚げとぶつぎりの唐揚げが盛られている。
注文すると、大きな中華鍋に投入され二度揚げされて出てくる。
「僕も家じゃ唐揚げはなかなかつくんないんですよ。
やっぱり油いっぱいの大鍋で揚げたほうがうまいっすから!」
と、”店鳥”がこれまた100万ドルの笑顔で言う。
唐揚げにはサルサや明太子(ソースが変わる)もあるが、まずはプレーンを頼む。
外はかりかりのクリスピー、中はほっぺが落ちそうにやわらかい。
20年ぶりの愛しい唐揚げはあたたかく優しく、不義理をしてきた私をいさめることもなく、
むしろこれでもかと魔性のオイリーでもってつつみこむのだった。
もっともっと食べたい。父さん、母さん、私もう食べちゃうけどいいよね!
一方、サイドメニューには、健味鳥の鳥刺しやアボカドの丸揚げや冷やしトマト、
鶏皮のまるごと揚げたのなど酒がすすむ料理が並んでいる。
どれもきめ細やかな盛りでいちいち美味。