瀬戸方久役のムロツヨシ

 城主となった直虎(柴咲コウ)は早速、井伊家の借金問題に直面する。その借金の相手は、瀬戸方久という商人。なんとこの方久、第2回で家出したおとわが出会った“あばら屋の男”の成功後の姿だった。以後、経済面で直虎を支えて行くことになる方久を演じるのは、個性派俳優として人気のムロツヨシ。一癖ある役を、どんな思いで演じているのだろうか。

-出演のオファーを受けた時のお気持ちは?

 最初、プロデューサーから「ムロさんにピッタリの役」ということでお話を頂きました。聞いてみたら「どんどんのし上がっていく人物」とのことだったので、確かにそれは僕にピッタリだなと。僕も、この世界で成功してやろうという野心を持ってずっとやってきましたから。でも、制作発表の時は「金のためなら、何でもやる男」になっていたので、「のし上がるんじゃなかったの?」と思いましたけど(笑)。

-第2回で“あばら屋の男”として出演された時の姿はインパクトがありました。周囲の反響はいかがでしたか。

 反響は大きかったですね。友だちからは、「この後、どうなるの?」と聞かれましたが、何人か「ああいう風貌じゃないと、大河に出させてもらえないの?」と言ってきました(笑)。ひげなどを付けた汚い格好が、以前「平清盛」(12)に出演した時と似ていたので。お芝居に関しては、「大河でもムロさんらしい芝居をやるって、すごい勇気ですね」と、褒めているのか、けなしているのか分からないことを、鈴木亮平くんから言われました(笑)。

-再登場した第13回の感想はいかがでしょう。

 再登場した時、直虎と向き合って話をする長めのシーンを頂いたのですが、柴咲さんとのお芝居が本当に楽しくて、とてもやりがいを感じました。役としてではなく、1人の役者として、座長の柴咲さんをきちんと支えたいという気持ちが芽生えました。それが一番大きかったです。同じ日に、直虎が1人で説明したり、怒ったりする場面の撮影を見ていたのですが、それも素晴らしくて、カットの声が掛かった時、思わず「お見事!」と声が出ました。そうしたら、柴咲さんが殿らしく「うむ」と答えてくれました(笑)。

-方久を演じるに当たって、大事にしていることは?

 一番大事にしているのは、野心家という部分です。再登場した時にはお店を持ち、殿にあいさつできるほどになり、ある程度の野心はかなえています。でも、現状に満足せず、さらにお金を手に入れよう、もっと商いをしようと、次々と新しい野心を抱いていく。同時に、村や国を潤すためにはどうしたらいいのかという商いに関するアイデアも豊富な人なので、そういう部分を大事にしたいです。

-方久が直虎に力を貸す理由はなんでしょうか。

 最初はお金のためです。ただ、付き合っていく中で、次第に領地や家族に対する直虎の思いを知り、少しずつ損得抜きで力を貸してあげたいと思う部分も出てきます。とはいえ、何か裏切りそうな空気があるんですよね、方久には。気に入ったら味方に付けばいいと思うんですけど、付かず離れず、いい距離を取っているんですよ。脚本家の森下(佳子)さんに聞いたら「フフ…」と笑ってましたが。怖いですよね(笑)。

-方久のような、実在の人物を演じる時に心掛けていることは?

 僕は、この役はこう演じようというふうに、事前に固く決めることはしません。“隙”という言葉が適切かどうか分かりませんが、隙を作って現場に入り、その時の共演者や演出の方々、セットや持ち道具から生まれた発想を生かすことを心掛けています。方久に関しても、史実をまとめた資料を頂いているので、こんな人だったろうという想像はできますが、実際にお会いしたわけではありません。だから、事実がどうだったかはあまり考えないようにしています。脚本を大事にして人物を掘り下げて行こうと思っているので、先ほど言った野心家という部分以外は、あまり作り込まないようにしています。

-森下佳子さんの脚本の印象は?

 読み物として面白いですね。台本を何冊かもらうと、1冊読んだらすぐ次を手に取ってしまうほどです。でも僕は、役者の課題として、台本を超えなければいけないと思っています。台本の面白さを伝えるのは当たり前のことで、そこにプラスアルファする。役者が演じると、台本に書かれた文字が話し言葉に変わりますし、立つのか、座るのか、ものを持つのかによっても、そこに込められたメッセージの伝わり方が変わってきます。その結果として伝わりにくいのであれば、何をするか、もしくはしないか、という足し算や引き算が必要になります。そういう意味で、森下さんの台本は面白い分、超えなければならないというプレッシャーが大きいですね。

-初めて大河ドラマに出演された「平清盛」の時と比べて、ご自身の中で違いはありますか。

 「平清盛」の時は、すごく緊張しました。とても光栄なことでうれしかったのですが、自分が出ていいのか、何ができるだろうか、と必死にもがいている部分がありました。さらに、役者として認められたいという、ちょっとした野心みたいなものもありました。でも今回は、プロデューサーと森下さんが僕の舞台を見にきてくれて、その上でキャスティングしてくれたという有り難いお話です。だから、その期待に応えたい。必死さよりも、期待に応える責任感とかやりがいを感じています。そういう意識の変化が一番大きいです。

-あばら屋の男から豪商になった方久は、視聴者にとっても夢のような存在です。方久の生き方に、成功のヒントはありますか。

 最初は両手で持てるぐらいのお金から始まって、お店を持つまでになったのは、やっぱりアイデアがあったからです。目の前に魚があるから、それを干物にして売ったら大もうけしたとか。これを買ったら何かうまく行くかもしれないという、一つ一つ目の前にあるものを大事にして、発想したことをきちんと行動に移しています。想像だけして動かないのではなく、あるものからしっかり発想して、動いて、実現させていく。僕自身も今までそうやってきたつもりですが、改めて見習いたいし、これからもそうありたいと思っています。

(取材・文/井上健一)