古巣を飛び立つ覚悟をしたには、自分の中で大義名分がありました。
具体的にやりたいこと(全国各地に取材したい場所、取材したい人間)ができ始め、それに取り組むには、会社シゴトと両立はできない。
そんなカッチョいいドリームを胸にネクストステージに向かったわけです。
しかし先立つものがあやしくなると、人間てのは
今日のメシの種ばかりに集中します。
今日を確保できたら明日の分。
来週など遠い未来のことは、考える余裕ゼロ。
懐カツカツ、心はドキドキ、手足ワナワナ。
近所の宅急便センターに「猫の手募集 時給1000円」という張り紙が、
何やら救いの啓示にすら見えてくる。
■「売れなきゃ意味なし」が口癖の元上司
そんなある夜。
辞めた会社の社長がたまたま近くで飲んでるから出てこねか~と
呑気に連絡をしてきました。
こちらは、カッコつけて辞めたわけです。
「んもう~忙しくて忙しくて(儲かって儲かって)」とニヤニヤしながら
しぶしぶ付き合ってあげた体で、景気の良さをアピールしたい。
んもう、全身全霊の空元気かつ、カッコつけてちょっと遅れて参上しました。
十年以上の付き合いになる社長は、いい意味で営利追求型の男です。
売り上げが一定ラインをクリアしてなければ「お前、じり貧だ!」
と容赦なく鉄拳をふるう、「売れなきゃ意味なし」が口癖でした。
一方、がっつり儲けたときは、「あぶく銭はみんなで使っちゃえ~」と
ビジネスクラスでハワイ旅行に連れられたときは、
あまりのショックで常夏のビーチで「きっと裏がある…」と同僚と震えたものです。
営利追求集団を自称しながらも、ときたまインパクトのある還元をする。
それと、個々のキャラを見抜く能力だけは長けていた。
この社長、配属やチーム編成、媒体担当をコッロコロ変えるんです。
「前と言ってたことと違うじゃないですか」と反論すれば、
「社長なんて、昨日と今日で言うことが変わる生き物なんだ」と
大胆な開き直りっぷり。しかしこのプライドのない気分の方針変えをしながら、
それぞれの向き不向きを探っていたらしい。
結果、もちろん不信感を募らせとっとと辞めてく人間も多いですが、
残る人間は10年以上は居る、という盤石な体制を作りあげたわけです。