辻堂は競輪を志す際に、先輩選手である秋谷淳(あきや じゅん)に弟子入りしている。この辺りは勝負の世界の独特な慣習のとも言えるだろう。同じく公営ギャンブルの競艇を描いた『モンキーターン』(河合克敏)や競馬の『トライアルライド』(原作:魚住青時、作画:小林知恵子)、またプロになる制度として弟子入りが必須となっている将棋漫画でも見ることができる。師匠として、辻堂が秋谷から教わることは多いものの、秋谷の過去のいきさつからトラブルに巻き込まれることもある。それがデビュー戦での失格だ。ただしそれはそれで糧として乗り越えているので、今後も楽しみな要素になっている。

そしてレースでは“ライン”と呼ばれるものが出てくる。自転車ならずとも走っていれば分かるだろう。先頭に立てば風を真っ向から受けることになる。そのため競輪では数人で集団を組んでレースを走ることが多い。これが“ライン”だ。多くは出身地が同じところだったり、競輪学校で同期だったりなど、ここでも人間関係が重要になってくる。先行者は風を受けるデメリットがあるものの、後方者にガード(他の追い上げを防ぐ)してもらったり、主体的な走りができたりするメリットがある。後方からついていく者は反対で、ついて行くことで風圧は減るが、展開によっては全くチャンスが生まれないこともある。競輪の面白いところは、「俺は先行」「○○さんについて行く」などと、出走者がある程度の意思表示をしてレースに挑むところである。もちろん状況によっては、意思表示とは全く異なるレース内容になることもある。それはそれで競輪の面白さにもなっている。

■競輪界におけるレースの駆け引き

こうしたレースで出てくるのが、有象無象のかけひきだ。競輪選手は、概ね月に2回のレースの斡旋があり、1回につき3日間(3回)レースに挑むことが多い。その3回のレース内容が密接に絡んでいる。100メートル走などで“予選の上位3位が順決勝に進出”の条件を聞いた人もいるだろう。競輪のレースもその形で行われることが多く、最初のレースで上位(概ね4位)に入ると更に上位のレースに、下位者は下位のレースに進む。そこでも上位に入ると決勝レースに出場することができる。もちろん上位レースの方が賞金が多く、点数も高い。では単純に1位になればいいかと言えば、先ほどの“ライン”の関係もあるので、そうとも言い切れない例えば1位になっても、次のレースで“ライン”を組みにくくなると、レースの組み立てが難しくなる。そのためにはライン仲間を活かしつつ『自分は上のレースに出られる4着に入れば良いか』の判断をすることもある。つまり後々のレースのために、あえて着順を抑えて走ることになる。

何か思い当たることはないだろうか。今回のロンドンオリンピックで女子サッカーが予選で引き分けを目指したこと。またバドミントンで韓国チームなどが無気力試合を行ったこと。 どちらもトーナメントの組み合わせを睨んだ対応だった。前者は非難の声があがり、後者は失格にまでなっている。今回はオリンピックだったことと、バドミントンの試合内容があまりにも稚拙だったために話が大きくなったが、以前から似たような展開は少なからず見られている。

事後的に失格にしたのは、個人的には「無茶なことをしたな」と思う。おそらく今後同様のケースがあれば、選手はもっと上手くやるだろう。例えば早々に体調不良などで試合放棄を行った場合には、どのような対応がなされるのだろうか。「参加することに意義がある」と言われたのは昔の話。商業五輪が根付き、報奨金ならずとも、活躍すればいろいろな面でメリットが享受される以上、勝つことが目的となっているのは当然だ。毎回抽選を行うなど、組み合わせの方法などを根本的に変える時期に来ているのかもしれない。