撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

10月4日(日)、新国立劇場のオペラ2020/21シーズンが幕を開けた。コロナ禍により結果的に2月で終了を余儀なくされた前季からおよそ7か月ぶり、待望の劇場再開だ。
新制作のブリテン《夏の夜の夢》は20世紀の現代オペラだが、音楽も物語も、明るく、また幻想的な、シェイクスピア原作の喜劇。世界の第一線で活躍するカウンターテナー藤木大地の出演が、発表時からの大きな話題だった。入国制限によって海外勢が来日できないため全役が日本人キャストに交代。演出も感染症対策を施して変更し、「ニューノーマル時代の新演出版」と銘打っての上演。しかしそこに「応急」とか「代替」とかのネガティブな疑念をはさむ余地は皆無の、完成されたプロダクションに仕上がった。
月に照らされた神秘的な森の中。そこに妖精たちの住む屋根裏部屋のような空間がある。注目の藤木は妖精の王オーベロンを演じて期待に違わぬパフォーマンス。繊細で丁寧な歌唱で存在感を示した。その妃タイターニアの平井香織、妖精たちに翻弄される2組の人間カップルの但馬由香と村上公太、大隈智佳子と近藤圭らの主要役も、海外勢の不在を微塵も感じさせない好演。日本声楽界の充実ぶりを証明した。
この舞台はもともと、2004年にベルギーのモネ劇場で制作されたデイヴィッド・マクヴィカー演出のプロダクション。今回はそのオリジナル演出に基づいて、女性振付家レア・ハウスマンが演出を担当した。彼女自身は来日せず、稽古場をオンラインでつないで演出を指示したのだそう。
飛沫感染への配慮から歌手同士の距離を空けた「新演出」だが、オリジナル演出からの最も大きな変更は、狂言回し役の妖精パックの演技だ。歌のない台詞役で、オリジナルではデイヴィッド・グリーヴスというアクロバット俳優が演じた。今回も出演予定だった彼は空中ダンスのスペシャリスト。演出もいわば彼への当て書きで、パックが文字通り飛び回る設定だったので、当然そこは変更せねばらなかった。代わって演じたのは若手バス歌手の河野鉄平。飛ばないまでも、台詞だけの役なのだから俳優のほうが適切などと考えたら大間違い。この起用が大当たりだった。23年間アメリカで暮らしたという英語力もさることながら、不気味な怪しい動きの大熱演で、いたずらな妖精を演じ切った。声援を規制された現状の客席ルールさえなければ、間違いなく大きなブラヴォーが飛んだはずだ。また、妖精の合唱の少年たち(FM東京少年合唱団)も、歌だけでなく動きも目を見張るクォリティ。このあたりに、身体表現のプロであるハウスマンの仕事が光っているのだろう。
ピットには、急きょ代役を委ねられた飯森範親が指揮する東京フィル。美しく研ぎ澄まされた、でもどこかいびつで不条理な響きが印象的なブリテンのオーケストレーションを、鮮やかに描き出していた。
劇場再開を祝うになんら不足がない舞台。新国立劇場が帰ってきた。
(宮本明)